愛知県北名古屋市にて、12年にわたって自宅サロン「Angel Rose」を経営する三井里佳さんのセラピストライフを紹介します。
三井さんは、サロンワークの一方で、障害者向け就労施設にも勤めて利用者の補助をしている、いわゆるダブルワークをするセラピストです。
三井さんのサロンのキャッチコピーは「40代からのアロマ美肌専門サロン」。
自宅の一室を使って、週に2日ほど営業しています。
「自分が自分に誇れる肌」を目指して、精油とオイルを使ったボディとフェイシャルへのトリートメントを提供しつつ、ホリスティックな視点でセルフケアなどのアドバイスもしているそうです。
サロンのキャッチコピーは「40代からの〜」とうたっていますが、実際には30〜80代と幅広い年齢層のお客様がサロンを利用しています。
お客様はリピーターが多く、長い方で10年以上のお付き合いになるといいます。
三井さんの人柄もあってか、サロンではいつもお客様との会話に花が咲くそうで、リピーターの方であれば家族構成まで把握しているほど。
お客様との信頼関係がしっかりと構築できていることがうかがえます。
彼女はサロンでの何気ない会話の中でお客様の今の状態を聞き取り、オーダーメイドメニューを構築しているそうです。
「静かな時間というより、おしゃべりを楽しみながら肌をケアしていく感じです。同じ癒やしでもリセットというよりエネルギーチャージなのかな。綺麗になることはもちろん、“生き返った!”とか“元気になった!”ってお客様に言っていただいた時に、心の中でガッツポーズしています」(三井さん談)
三井さんに自身のセラピストライフを振り返ってもらうと、「今はお客様に生かされているという感じです」と笑顔で応えて、これまでの歩みを語ってくれました。
私もこれを誰かに、という純粋な思いから。
三井さんは、もともと大手化粧品メーカーの販売員でした。
化粧品選びのコツやメイクの技術をその頃に磨き、肌に関する知識を得ていったそうです。
販売員として、お客様への声かけやスキンチェックをした人数、売上げなど、毎日の目標を達成することにやり甲斐を覚えた三井さん。
徐々に職場での評価も上がっていき、現場や後輩を任せられる立場になり、出産を機に職を離れるまで10年ほどの間、接客や職場リーダーとしての経験値を積んだそうです。
そんな三井さんがアロマセラピーと出合ったのは、重いアトピーで苦しむ家族がいたことがきっかけでした。
痒さのあまりに眠れない状況に、ある日、「安眠によい」とうたったアロマランプを試したそうです。
すると、三井さん自身も喉がスッキリした感覚になり、アロマテラピーに興味を持ったとのことです。
三井さんはさっそく近所の文化センターで行われていたアロマテラピーの入門教室で学び、その後、本格的にスクールへ通うようになります。
学べば学ぶほど、興味が強くなっていき、資格を取るまでに至ります。
また、スクールで初めてアロマオイルトリートメントを受けた時に、「私もこれを誰かにしてあげたい」と純粋に思ったのだそう。
練習のために家族にトリートメントをして喜ばれたことで、三井さんの中で「もっと上手になりたい」という気持ちが強くなっていったとのこと。
いつしか三井さんは、自分のサロンを持ちたいという思うようになっていました。
お客様ありきの技術という、本当の意味
こうして三井さんは、2009年に自宅の一室を整えて、サロンをオープンします。さっそく同じ保育園に子どもを通わせるお母さんたちにチラシを配って、宣伝したそうです。
しかし、ママ友の何人かがリピーターになってくれたものの、それ以上の集客が思うようにいかず、オープンから1年が経っても来店数は伸び悩みました。
「資格を取ったのだから、身に付けた技術を使って誰かに施術したい、という気持ちばかりが先立っちゃって。ド素人の考えで、技術があればできると思って、集客も何も考えずに始めたんですよ。お客様が増えなくて、もう続けられないかもと思いながらも、リピーターさんが定期的に来てくれるので、受身的にサロンを続けていました。その頃は、週3でパートで働いていましたね」(三井さん談)
こうして、別の仕事でカバーしながらどうにかサロンを維持し続けた三井さん。
彼女が新しい学びに出合ったのが、今から5年ほど前のこと。自宅サロンのノウハウを教える講座を受講したのです。
そこで集客やSNSの活用法、売上の管理など、いわば「サロン経営の基礎」を学び、いかに自分が素人考えだったかを知って衝撃を受けたそうです。
そして、三井さんは一からやり直すことを決めます。その「一から」がどこからなのか。それを聞いて私はとても驚きました。
以前学んだスクールとは別の系統のスクールで、アロマテラピーの初級からプロレベルまで2年掛けて学び直したというのです。
「学び直してみると思った以上に新鮮でしたね。以前とは意気込みが違ったということもありますけど、“お客様ありきの技術”だということが、そこで本当の意味で分かった気がします。最初に資格を取った時は自分の興味が先行して、お客様がいてこそのセラピーであることに思いが届いていなかったんですね」(三井さん談)
この学び直しの後、三井さんはパートを辞めてサロン経営1本で歩む方法を模索したそうです。
その一方で、アロマセラピー以外にも興味を広げ、学び続けることになります。
異業種交流会を開催して、新しい人脈と繋がり、自分が知らない世界や知識に触れるようになったとのこと。
人との交流の中で、自分のサロンワークに足りなかったピースが埋まっていく感覚を覚えるとともに、失いかけていた自信を取り戻していき、学んだものをお客様に還元していくことの喜びを再確認できたことを教えてくれました。
そうした模索の中で、現在は障害者向け就労施設の職員とサロンのダブルワークというセラピストライフを選択しての今があるそうです。
働く場所と内容は違えども、セラピストマインドを発揮できる場であるため、両立することにまったく違和感はないそうです。
「どんな声かけをすれば、相手が素直に受け取ってくれるのかな、と考えることは、サロンでも施設での補助でも共通しているんです。両立させるために体力的に心配していた面もあったですが、好きなことなら意外とできるんだな、というのが実感です」(三井さん談)
今後は、一般の方を対象にしたハーブティーやアロマなどのフィトテラピーに関する基礎講座を開催して、体に内側から美肌を作るための方法や自宅でできるセルフケアを伝えていきたいと、三井さんは笑顔で語ってくれました。
他にも、肌に合わせた化粧品の選び方や使い方に関する講座など、美肌をキーワードにして活動の幅を広げていくアイディアを教えてくれました。
「最初は、ただ自分がやりたいというだけの理由だけで、サロンにしがみついていた部分があったんだと思います。それで経営が上手くいかずに、もうだめだって1回手放すことを覚悟したら、私に続けて欲しいっていうお客様が自然に残ってくれてた。“ああ、お客様に生かされているんだな”って思ったし、“手放さなくてもいいんだよ”と誰かに言われた気がしました。その後、学び直して再スタートしたので、セラピストを十年以上やってますけど、私としては4、5年目みたいなものなのかな(笑)」(三井さん談)
インタビューの中でこれまでの歩みを笑顔で語ってくれた三井さん。
そこには失敗と挫折がありましたが、それでも今の彼女にはポジティブなエネルギーが溢れています。これからやりたいことを嬉々として語る三井さんに、今後の活躍を期待せずにはいられないインタビューでした。
校長からのメッセージ
今回はダブルワークをするセラピスト、三井さんのお話を聞くことができました。
以前は、日本では本業と副業というイメージで語られることが多かったかもしれませんが、最近では複数の仕事を持っていることが、その人のアイデンティティになっているという見方に変わりつつあるように思えます。
彼女の例でいえば、まったく別の顔を2つ持っているのではなくて、1人のセラピストが別々の現場で、その場に応じたサービスを提供しているという見方の方がふさわしいように思えるのです。
また、セラピストの評価は「どれだけたくさんの人に施術をしているか」だけで決まるのではないということも、大切な学びだと思います。
人数は少なくても、「他の誰かじゃなくて、あなたにセラピーをしてもらいたい」と言ってくれるような良い関係をお客様1人ひとりと結べることも、重要な要素なのでしょう。
三井さんの場合、サロンを開けられる日が限られても、「それでいいから、よろしくね」と10年以上も続くお客様との関係性が築けるというもの、セラピストという生き方ならではと言えます。
加えて、学び直しに関しても、三井さんのケースは多くのセラピストに参考になるのではないでしょうか。
セラピースクールで資格を取って卒業して、「技術力があればサロン経営ができる」と見切り発車して途中で行き詰まるというパターンは、この業界の「あるある」かもしれません。
ですが、学び直しの覚悟を決めた後の三井さんの行動力には、正直驚かされました。
サロン経営の基礎からではなく、アロマセラピーの基礎から学び直したということでしたから。
三井さんに、これから個人サロンを始めようとする人へのアドバイスを求めた時に、「まずはやってみたらいいんじゃないかな。やらないと分からないよね」と笑顔で語ってくれました。
「まずやってみて、本当に好きかどうか、続けられるかどうかをみてもいいと思います。もちろんお客様ありきなので、お客様に望まれたら、がんばればいい。でも、そこで無理しないこと。無理すれば、体や心が病んだりして、ぜったいにどこかで綻ぶので。好きでやるんだったら、どうやったら自分が気持ちを楽にしてできるかを考えたいですね。私はいつも、できない理由を探すんじゃなくて、できる理由を探すようにしています」(三井さん談)
できる方法を探す時には、「一から学び直す」ことすらいとわない。
セラピストとしての自分を求めてくれるお客様のための場を用意するためには、ダブルワークでもいい。
むしろ、学び直しも、ダブルワークも、そこで得た知識や経験をセラピストとしての糧にして、自分に繋がる人たちに還元していけばいい。
サロンだけにこだわらずに、講座を開いたっていい。
三井さんはこれまでの経験から、おおらかに可能性を限定せずに模索し、それでもセラピストとして1本の筋を通してセラピストライフを歩む方法を見つけたのかもしれません。
「私のサロンに来ていただく方には、元気になって帰ってもらいたい」と三井さんは言います。彼女のポジティブな心と、元気な笑顔に触れることで、お客様も自然とポジティブに元気になっていく。
そんなお客様の気持ちが分かったような気がするインタビューでした。
Angel Rose
https://r.goope.jp/angelrose/