東京都新宿区にて、7年にわたってサロン「Warm Beauty」のサロンオーナーセラピストとして活動しながら、後進の指導も行っている、村岡利枝さんのセラピストライフを紹介します。
【サロンオーナーセラピスト編】はこちら
村岡さんは、これまで11年にわたって彫刻リンパⓇセラピスト協会の認定講師として、後進のセラピストの育成にあたってきました。
生徒さんは20代〜50代と幅広く、いずれ自分のサロンを持ちたい、子育てをしながら自宅で働きたいなど、独立志望の方が多いそうです。
中には、50代となりこれから自分の人生を考えた時に「人の役に立ちたい」と一念発起して、学びにくる方もいるとのこと。
ほとんどの生徒さんはサロンのお客様とのことですから、施術の確かさに加えて、サロンのコンセプトや、村岡さんたちセラピストの生き方に共感する部分が大きいのだろうと思います。
「自分の疲れを癒やすためにずっと通ってくださっていたお客様が、元気になった時に今度は人のためにできることを探して、私のスクールを選んでくださる。それはとても嬉しいことです。きっと、疲れていたり、冷えに苦しんでいる方を助けたいという、私たちのコンセプトに共感してくださったんだと思います」(村岡さん談)
村岡さんのケースで私が気になったのは、サロンとスクールを同時期に始めていることです。
そのことについて聞くと、
「レッスン期間中に出会う人出会う人に施術をさせてもらっていたら、教えて欲しいというリクエストを受けるようになったんです」と村岡さんは振り返ります。
「私がスクールの通っている時、レッスン期間の3ヶ月で100人の体に触れさせていただいたんです。飲食店とかで隣のテーブルの人に『ちょっと触らせて』と、腕に簡単な施術をさせてもらうことありましたね。それで興味を持ってもらえたら、首や肩にも触れさせていただいて。その場で姿勢や表情が変わるので、すごく盛り上がりましたよ。『すごいでしょ』『みんな、身に付けたらいいよ』ってセラピーの話をお伝えしているうちに、教えて欲しいと言ってくださる方も出てきて。だから、私、先生にお願いして猛スピードで認定講師の資格を受けさせてもらったんですよ」(村岡さん談)
良いのものは人に伝えたい、体験してほしいという村岡さんの姿勢が、彼女自身のスキルアップに繋がったとともに、サロンやスクールのための「種まき」にもなっていたというわけです。
こうして村岡さんはサロンとスクールを同時にオープンさせ、サロンの現場に立ちながらも、1年目に30人もの生徒さんを集めたそうです。
しばらくの間は夢中でサロンとスクールのために走り続けた村岡さんですが、ある時に「自分はちゃんと教えられていなんじゃないか」と立ち止まった時期があったそうです。
「最初の頃は『これ、すごいよ!』っていう気持ちでお伝えしてきたんですけど、ふと自分の教え方の粗さに気がついてしまって。私自身がトライして身に付ける感覚的なタイプで、セラピストとしてはそれでも良かったんですよ。だけど、それでは生徒さんには伝わらないこともあるんだって気がついて、すごく反省したんです。感覚で説明して分かってくれるような能力のある生徒さんだったら、きっと誰に学んでも育っていきますよね。でも、生徒さんにはいろいろな人がいるのだから、1人でも多くのセラピストを生み出すには、1度自分のやり方をマニュアル化しないといけないと思いました。それ以来、本当の意味での講師になるために、ずっと模索を続けてきました」(村岡さん談)
「セラピストの育成に取り組んでみてどうでしたか?」と私が聞いたところ、村岡さんは「人への接し方が施術の臨み方に現れてきますね」と語ってくれました。
たとえば、自分の手を相手の体に深く入れることができない生徒さんの場合、優しさだったり、怖さだったりがあって、相手の本音に踏み込めない性格が施術に現れているのだそうです。
そして、施術で深く手を入れられずに躊躇した時に、生徒さんによっては笑って誤魔化す、言い訳をする、泣き出してしまうなど、様々な反応をするとのことですが、その生徒さんが人に接する時も同じようにしてきたのではないかと推測できるのだそうです。
村岡さんは、生徒1人ひとりに寄り添いながら、セラピーのレッスンを通じて、生徒自身が自分の心の弱さに気づき、向き合えるように促していくようです。
そして、生徒さんが自分の本質に気付き、心の弱さを乗り越えた時に、施術スキルにも劇的な変化が訪れることがあると語ってくれました。
それが、セラピストとしての本当の第1歩であり、また人生にも大きな変化をもたらす。
講師として大切にしていることを聞くと、村岡さんは「自分自身が学びを止めないことですね」と笑顔で教えてくれました。
「分かった気になるっていうことが、一番怖いことだと思っています」とも。
【サロンオーナーセラピスト編】で、村岡さんが自分のスタイルを再構築したというエピソードをご紹介しました。
自分の心の琴線に触れるものは何かと、改めて考えて、ミッションを定め直した、ということでしたが、その糸口となったのは、実はスクールや勉強会で生徒さんやセラピストに接している時だったそうです。
「生徒さんに対して、『自分が何者であるのか、自分は誰のお役に立ちたいのかという立ち位置を定めよう』とお話ししている時に、ふと『そういう私はどうなんだ』と自分で自分に問いかけていたんです」(村岡さん談)
生徒に語りかけていた言葉が、育成者自身の心に響いてしまう。育成セラピストにインタビューしていると、たびたび聞く話です。
育成する立場でなくても、セラピストがお客様に健康的な習慣や食生活について説明している時に、同時に「自分はどうなんだ」と自分に問いかけてしまったような経験は、誰しも持っているだろうと思います。
同じ言葉、同じ出来事であっても、それを見聞きした時の立場や経験値によって、感じられることは違うし、受け止め方も違うもの。
だから、育成者であっても、生徒であっても、自分の至らなさに気付いた時が、実は「成長期」なのかもしれません。
「分かった気になっていたこと」に気づく度に、また一歩前進する。その繰り返しがその人らしい成長の軌跡になるのでしょう。
スクールはもちろんサロンも、セラピストとお客様の双方にとって、大切な学びの場であると考えた時、そこに集う人々にとって村岡さんのように歩みを止めない姿こそ、最も大切な教材になるのだろうと思います。セラピーとは、そうした姿勢とともに技術が継承されていくものなのかもしれません。
校長からのメッセージ
この記事では、村岡さんのスクール運営について紹介させていただきました。
ただ、【サロンオーナーセラピスト編】の内容からも分かるように、彼女にとってはスクールとサロンが地続きになっているというのが本来のところなのだと思います。
つまり、自分のスクールの卒業生からサロンのスタッフを募って、スタッフとして独り立ちできる力を養い、そしてサロンからも卒業して独立開業する、という流れを作ろうとしているのです。
それは経験の浅いセラピストにとっては、とてもありがたいシステムではあります。
しかし、村岡さんが講師として「学ぶのを止めない」ことを大切にしているように、エスカレーター式に上がって行けるようなものではなく、生徒としてスキルを身に付けるにも、スタッフとして現場を学ぶにも、セラピスト1人ひとりの成長の意欲は大前提としてあるのだろうと思います。
さて、インタビューの中では、村岡さんは自身を「感覚的なタイプ」と分析していました。
感覚的にスキルを身に付けてきたために、生徒さんに伝わらない部分もあるのではないかと気付いて以来、教え方を試行錯誤し続けているとのことでした。
【サロンオーナーセラピスト編】で紹介したように、村岡さんは手を通してお客様の本音を聞き取れることもある、ということでした。
なんと、男性のお客様のお腹の硬さを感じた時に、「分かってもらえない」という声が聞こえてきたという経験もあるとのこと。
それが気になって聞いてみると、そのお客様は前日にプライベートでトラブルがあった、という話を打ち明けてくれたそうです。
普通であれば無意識に打ち消してしまいそうな「心の声」を、高い感度で拾い、言語化できるというですから、「感覚的なタイプ」というのも頷けます。
「私は最初の頃は、お客様の身体を触って涙がボロボロ出てきちゃったりもしました。私の場合、それで具合が悪くなるほどではなくて、教わった技術プラス経験によって今のスタイルを身に付けましたけど、注意が必要だと言われますね」(村岡さん談)
セラピストにとって、鋭い感性は強みにも弱みにもなるということが分かるお話です。
村岡さんの場合、師から指導を受ける過程で、自分の特性と付き合う方法を身に付けてきたのでしょう。
また、この記事で感覚の鋭い彼女が「ちゃんと教えられてないのかも」と立ち止まったという話を紹介しました。
それはきっと、彼女が育成セラピストとして一段高いステージに登った瞬間だっただろうと思います。
これも「感覚派」の弱みを示すエピソードですが、彼女が自分の本質を見つめ直した上で、多くの生徒さんに伝わる表現を模索し始めたことにこそ、価値があると思うのです。
育成セラピストにとって、自分の本質を認識して、強みと弱みを知って対策を考えることこそが、実は十人十色の生徒たちと向き合うためには、とても重要なことなのではないか、と私は思っています。
いずれは後進の育成に取り組んだり、一般の方に自分のスキルを伝えたいと考えているセラピストにとって、1度改めて考えてみるとよいテーマなのではないでしょうか。
Warm Beauty