一般社団法人日本メンズセラピスト協会(JMTA)と、一般社団法人インターナショナルセラピー協会(ITA)の代表理事を務め、東京を拠点として10年にわたって、セラピストの育成にあたっている川上拓人さんのセラピストライフを紹介します。
「世界一のセラピスト」としてセラピー業界で名の知れた存在である川上拓人さん。(以下、拓人さん)
表参道にあるアロマトリートメントサロン「Cherill Angeli(シェリル・アンジェリ)」を始め、スクール事業、不動産事業など、いくつものプロジェクトに携わっており、その活動は広く、非常に精力的です。
今回のインタビューでは、スクールを運営する「育成セラピスト」としての顔にフォーカスしてご紹介していくことにします。
拓人さんが運営する2つの協会(JMTAとITA)には、それぞれにスクールがあります。
メンズセラピストアカデミーと、インターナショナルセラピースクールです。
メンズセラピストアカデミーは男性セラピストの育成を、インターナショナルセラピースクールは世界に通用するセラピストの育成を、その目的としています。
そのどちらにも共通するキーワードは、「教育の重要性」と「愛」。
彼がこうした活動をするようになった経緯を伺いました。
学んだのは、人から必要とされる技術。
拓人さんは、高知県で生まれ育ちました。
そんな彼の中には、「可能性のあるところで勝負したい!」という思いがあり、東京の大学を選び、上京します。
しかし、入学後間もない1年生の時でした。
思いがけず、学費を含めた生活の全てを自ら賄わなくてはいけない状況に陥ったのです。
そこで、とにかく効率よく稼ぐために、接客業のアルバイトをすることに。
ただ、高収入というだけあって、そこは昼夜逆転するのが当たり前の環境でした。
実は、当時の拓人さんは自他共に認める人見知りのシャイボーイ。接客業にはとても向いていないタイプだったそうです。
その店で、うまく立ち回れずに悩んでいた彼に、ある出会いがあります。その方は、銀座のクラブでナンバーワンと言われる人でした。
「その方から、“人から愛される技術”、言い換えると“人から必要とされる技術”を教わることができたんです。いただいたアドバイスを素直に実行していったら、みるみるうちに状況が変わっていきました。そこで僕は、“教育のすごさ”を実感したんです。一度身に付けた技術は、一生僕から離れる事はありません。一生ものの技術を早い時期に身に付けられたのは、本当に運が良かったんです」(拓人さん談)
その後、学生生活を終えた拓人さんは、セラピストの世界に足を踏み入れます。これが2011年のこと。
“拓人”という名前の通り、開拓していく
セラピストを選んだ理由について聞きました。
「自分が健康でいられて、接客業で身に付けた技術が役立つものを探しました。その頃は、男性セラピストのメディアへの露出が少なかったので、ここを開拓できるのではと思いました。ただ、先駆者がいない=需要がないということでもありますので、茨の道になるだろうことは覚悟していました。でも、それも楽しめるかなと」(拓人さん談)
彼はそう振り返りながら
「僕の“拓人”という名前は、開拓する人という意味ですから」と笑顔で答えてくれました。
こうして、拓人さんはセラピストとして、男性セラピストが所属するサロンに勤務するようになります。
ただ、当時は男性セラピストの認知度が低く、活躍する場も少なく、大手フリーペーパー誌にも出稿できないような状況でした。
拓人さんは、男性セラピストの社会的地位や認知度を高める必要性を強く感じたそうです。
そこで、彼は男性セラピストを知ってもらうために、男性セラピストを集めて、ボランティア活動をしたり、練習会をしたりするようになりました。
これが日本メンズセラピスト協会(JMTA)の始まりです。
そうした活動の中で、「教えて欲しいという」声が集まるようになり、2014年にメンズセラピストアカデミーの設立へと至ります。
「当時あった既存のセラピースクールでは、手の使い方だけを教えるようなところもありました。肝心な体の使い方を教えないので、お客様に喜ばれることはありません。だから独立しても失敗しまって、男性のセラピストが増えないし、全体の評価も上がらない。その悪い流れが目に見えていて、それでは業界が良くならないと考えました」(拓人さん談)
接客業時代に教育の大切さを身に染みて理解していた彼は、男性セラピストが長く活躍していくには、セラピー技術はもちろんのこと、もう1つ別の技術を伝えることの重要性を考えていました。
それが、“人から愛される技術”です。
人から愛されるには、人に愛を与えてこそ。
それは、どうすれば人に喜んでもらえるか、愛をどうやって伝えるか、愛を与えるためのエネルギーをどうやって蓄えるか、という課題に直結します。
他の言い方をすれば、心理学、コミュニケーション力、マーケティング、マインド、セラピースキルなど、多岐にわたる能力を総合力が試されているということでもあります。
一般に、男性セラピストはいわゆる「職人肌」の人が多く、女性よりも共感力が低い傾向にあります。
技術はあっても、目の前のお客さんがいま望んでいることを読み取れず、応えられない、というのでは、リピーターは増えません。
すると、いつまで経っても自信が付かず、自信のなさが手に現れてお客様に伝わってしまう。その悪循環に陥る男性セラピストは少なくないでしょう。
拓人さんも指導をする中でそれを実感していました。
男性セラピストには、まずマインドを変えてもらおう、と。
「もちろん個人差はあると思いますが、職人肌な男性セラピストは、コミュニケーション不足や共感不足になりやすい。女性のお客様は共感してもらいたいのに、結論を先に出してしまうなど。心理学やコミュニケーションの授業は絶対に必要だと思うから、僕のスクールカリキュラムには取り入れています」(拓人さん談)
夢だった『世界一のセラピスト』という称号。
次に、一般社団法人インターナショナルセラピー協会(ITA)とスクールについて、川上さんに聞きました。
「もともと僕は海外旅行が好き。どうせなら仕事もしたいと考えて、好きなものを組み合わせました」と彼は笑顔で答えてくれて、スクールを開講するまでの経緯を語ってくれました。
海外旅行とセラピーを組み合わせようと考えた拓人さん。
まずインターナショナルセラピー協会という法人を作り、海外のセラピースクールの取材と情報発信を、その事業として位置づけました。
そして、タイやバリのセラピースクールに取材をして、記事を書いてWEBサイトにアップしていったそうです。
こうした活動はボランティアでしたが、取材先から喜ばれて、やり甲斐を感じるとともに、いつかは留学生の仲介もできたら、と考えたそうです。
この活動は、思わぬご縁を呼び込みます。
記事を見たフランスのニースにあるエステスクールから、取材のオファーが届いたのです。
そして、このスクールから、パリでセラピストの世界大会があることを報されるとともに、拓人さんはそのインターナショナル部門へのエントリーを勧められることになります。
全く想定もしなかった提案でしたが、カバン1つでパリに移動し、慌てて準備をして大会に臨んだそうです。
その時の彼の中にあったのは、「日本のセラピーの素晴らしさを知ってもらいたい」という思い。
そして、「自分がどこまで通用するか」というチャレンジ精神、その結果は優勝。
夢だった『世界一のセラピスト』という称号でした。
帰国後、「世界一のセラピスト」のもとで学びたいという問い合わせが増え、ニーズの高まりを感じ、拓人さんはスクールを作ることに決意します。
それが「世界に通用する技術を学べるセラピストのための学校」インターナショナルセラピースクールです。
こちらのスクールでは男女問わず、アロマテラピーのスキルとともに、サロンワークや心理学、マーケティング、コミュニケーション力の向上、集客スキルなど、一流のセラピストを目指すカリキュラムを提供しているそうです。
「ゆくゆくは世界中の技術を学べるスクールにしたいし、世界の技術を学びにいける窓口にしたい」そう語る拓人さんの目には、その未来がすでに見えているかのようでした。
校長からのメッセージ
思わぬ窮地に始めたアルバイトで、「接客の極意」を教えてくれる人に出会い、セラピストライフをスタートさせた拓人さん。
いくつもの壁を越えて、今や多くのセラピストたちを育成する立場となりました。
現在は、スクールの生徒の育成と、卒業生たちがさらに成長し、一人前のセラピストとして歩むための環境作りに専念しているそうです。
なお、メンズセラピストアカデミーの生徒のほとんどは未経験で、転職などを機にセラピストを目指す男性が多いのだそうです。
これに対し、インターナショナルセラピースクールには、男女問わず、セラピスト経験者が、技術のブラッシュアップに加えて、心理学やコミュニケーション力の向上のためであったり、マーケティングや集客などの経営スキルを身に付けたいと集まるのだそう。
2つのスクールを持ちながら、どちらも棲み分けができていて、違ったニーズを受け止めていることがわかります。
もちろんそれは、どちらのニーズにも応えられるだけの知識や経験があり、それらを言語化できる拓人さんの能力があってこそでもあります。
さて、メディアに出れば「世界一のセラピスト」と冠される彼ですが、セラピストへの想いはとてもシンプルです。
「愛されるセラピストであり、また愛を与えるセラピストになってほしい」──それは、お客様の人生を変えるきっかけになるだけでなく、セラピスト自身の人生を変えていくもの、と彼は語ります。
拓人さんの愛は、お客様に向けられるだけでなく、生徒であるセラピストにも向けられているのです。
たとえば、拓人さんの事業には不動産業も含まれているのですが、それは独立するセラピストがサロンを開業する際に支援するためです。
また、SNSを活用して卒業生たちが情報交換できる場も用意しています。
海外への留学窓口となることも、生徒への愛の1つです。
拓人さんがこれほど教育に力を注げるのは、彼自身が教育によって救われたからなのでしょう。
教育とは、先人が長年の経験で培った知恵を、後進に伝える行為です。
それは「情報を切り売りする」ような商売とは、まったく違うものです。
「愛がないと、“技だけ教えてさようなら”になってしまう。本当は卒業してからが重要になるんです。僕は生徒に成功してほしい。僕にもできる限界はもちろんあるんですけど、生徒が学び続けられる環境を作りたいと考えています」(拓人さん談)
これからどうするのですか? と彼に尋ねたところ
「セラピストとなって10年。いくつものことにチャレンジして、いろいろな形で結果も出せてきました。次の5年は、やはりこの業界を大きくしていきたいですね。癒やしの必要性を多くの人も知ってもらいセラピーを受けたい人を増やす。それとともに、セラピストの質を引き上げる。業界が大きくなって、セラピストが生活できるようになれば、それだけセラピーの恩恵を受けられる人も増えていくはずで、そのための策を考えています。」
「“世界を癒す”というのが、今の僕のミッションです」と爽やかな笑顔で語ってくれました。
ITS(インターナショナルセラピースクール)
https://www.international-therapy.com