栃木県宇都宮市にて、2014年より「Hiroro holistic care salon」を運営をしている大塚寛子さんのセラピストライフを紹介します。
大塚さんが主に提供しているセラピーは、フェイシャルリフレクソロジー。つまり、「顔のリフレクソロジー」です。
これはデンマークのリフレクソロジスト、ロネ・ソレンセン女史が創始した「ソレンセン式神経反射療法」の技法の1つ。
顔は脳に近いため無数に点在するツボや神経ポイントを刺激すると早く信号が伝わるとされており、顔全体に分布する反射区に優しく刺激を与えて、脳から身体を整えるのだといいます。
大塚さんのサロンでは、ベッドに仰向け寝たお客様の顔に施術用のオイルかクリームを塗布し、左右の中指の2本のみを使って痛気持ちイイを感じる圧でジワッと刺激を伝えるとのこと。
指先で皮膚の下の老廃物を「溶かす」ようなイメージで刺激することで、反射区に対応する臓器や感情などにアプローチできるのだと、大塚さんは説明してくれました。
「施術を受けている間、お客様は脳が体を手放しているような状態になると言えばいいのかな。よく眠っているようでも意識はあるという、脳が休息を取っている状態になるんだと思います。だいたい45〜60分の施術が基本ですが、施術を終えてお声を掛けるとスッキリとしたお顔で起きて、『ああ、気持ちよかった』『もう終わっちゃったの』と言っていただけることが多いですね」(大塚さん談)
大塚さんのサロンは女性限定で、30代から50代くらいの方が多く、なかには70代の方もいるという、幅広いお客様が通ってきていて、大塚さんはお一人おひとりの相談に耳を傾けながら、不調の根本を整えることを目指して、オーダーメイドメニューを提供しています。
お客様からは、施術を受けたことで「寝付きが良くなった」とか「体が疲れにくくなった」というご感想の他、落ち込んでいた気持ちが晴れて、表情に明るさが戻ってくることもあるそうです。
反射区による刺激が内臓や筋肉に良い影響を与えるともに、脳の情報処理が追いついていない状態が解消されたということなのかもしれません。
不調が改善されることはもちろん、そうした深いリラックス体験が喜ばれて、リピーターになる方も多いとのことでした。
「施術後に『ああ、気持ちよかった』って起きてもらえることが、私にとっては一番のご褒美です」と、笑顔で語ってくれた大塚さん。
彼女がどのようなきっかけで、セラピストの道を歩み始めたのか、これまでの経緯を含めてお話を伺いました。
すごく気持ちいいから。これを仕事にするといいよ。
大塚さんと「ソレンセン式神経反射療法」の出会いは、彼女が祖父母を連れて京都に旅行したことがきっかけでした。
京都旅行の情報収集のためにインターネットで検索していた時に、大塚さんは京都在住の方のブログの記事を参考にしたそうです。
そのブログで紹介されていたお店の情報は確かだった上に、記事の面白さに惹かれて、大塚さんはそのブログをよく読むようになります。
そして、ふとブログ主がどんな人なのかが気になって調べてみると、「ソレンセン式神経反射療法」を使った美容系のセラピーを提供するセラピストだったことが分かります。
「この人に会ってみたい」と思った大塚さんは、人生で初めてセラピーサロンを予約をし、京都に向かったそうです。
当時の彼女は事務職をしていて、日々の忙しい生活の中で「自分の感情がわからなくなっていた」ような状態だったこともあって、「すごく気持ち良くて、自分のメンテナンスにもなる」と感激したと、大塚さんは振り返ります。
そして、関東で通えるサロンを紹介してもらい、大塚さんはその後2年以上ものの間、通い続けることになりました。
そんな折りに起きたのが、東日本大震災。
大塚さんはビルの7階で大きな揺れに見舞われ、食事も喉を通らないほどの地震酔いに陥ってしまいます。
余震が続く中にも関わらず、大塚さんは通っていたサロンに温かく迎え入れてもらえて、1度の施術で地震酔いは大きく改善し、落ち込んでいた気持ちも上向いたそうです。
大塚さんはこの施術の確かさに改めて驚かされながらも、同時に彼女の脳裏に浮かんだのは、病魔と闘う親友のことでした。
もしかすると、闘病の助けになるかもしれない。
そう考えた大塚さんは、セラピストさんに相談した上で、親友をサロンへ連れて行く段取りを整えます。
しかし、栃木から東京への移動は、闘病中の身には難しく、その計画は断念せざるをえなくなりました。
その時に、大塚さんはそのセラピストさんから、思いがけない提案を受けます。
それは「あなたが学んで、ご友人にしてあげるのはどうでしょう?」というもの。
「私にできるかな?」と戸惑いながらも、大塚さんは学校に通い始め、学びながら、練習と称して少しずつ親友に施術をするようになったそうです。
「すごく気持ちいいから、これをちゃんと仕事にするといいよ。資格が取れたら、私、ちゃんとお金お支払いしたいの」
そんな何気ない言葉を投げかけてくれた親友は天国に旅立ちます。
親友から貰ったその言葉が、大塚さんにプロのセラピストになることを決心させ、今でも強く心に残っていると、大塚さんは時に言葉を詰まらせながら私に話してくれました。
そして、2014年、大塚さんは自宅の一室を改装し、「Hiroro holistic care salon」をオープンさせたのです。
「闘病に寄り添わせてもらって、触れた経験や交わした言葉は、全部、今でも宝物のようなプレゼントだと思っています。親友と約束をして、これを仕事にするんだと決めて以来、もっとしっかりしなきゃ、もっとうまくなりたい、もっと技術を磨きたいっていう思いが強くなっていきました。サロンをオープンしてからは、いろいろなお客様に触らせていただき、毎回、勉強させていただいています」(大塚さん談)
大塚さんは、長く通うお客様から「ずっと笑顔だよね」とよく言われそうです。
施術スキルが大切なことはもちろんとして、彼女の雰囲気がお客様を安心させ、深いリラックスへと誘っているのかもしれません。
「お客様が、その人らしく生きられるお手伝いがしたい」と大塚さんは笑顔で話してくれました。
体の不調、煩わしい人間関係、ストレスのある仕事、大きな病……、人には大なり小なり、悩みがあるもの。それが自分らしく生きることを妨げているのだろうと思います。
そんな日々の悩みごとから、お客様をほんのひとときだけ解放してさしあげることしか、セラピストにはできないのかもしれません。
それでも、かつての大塚さん自身がそうだったように、そして彼女の親友がきっとそうだったように、そんな「ひととき」に心から救われる思いをした人は、きっとたくさんいるはずです。
施術中の深いリラックスから醒めたお客様が、大塚さんの笑顔に吊られて自然に笑顔になり、そして生きる力を取り戻して生活に帰っていく。
ニコニコしながらお客様のことを話す大塚さんを見て、ふとそんな風景が脳裏に浮かびました。
校長からのメッセージ
大塚さんのサロンにアクセスしてくる新規のお客様は、既存客からの紹介が多い他、SNS(InstagramやFacebook)で大塚さんの存在を知って、来店するお客様もいるそうです。
また、フェイシャルリフレクソロジーは服を脱がずに、座ったままでも行えるため、イベントなどに出展して短時間の施術を提供することもできるとのこと。
そうしたイベントで出会った人が、改めてサロンに予約することもあるそうです。
サロン以外でも施術しやすいという特徴を活かして、お客様のご自宅に出張することもあるということでした。
ちなみにInstagramを覗いてみますと、大塚さんの愛犬家の横顔とともに、ペットセラピーを提供している様子を見ることができます。
大塚さんは、記事で紹介したフェイシャルリフレクソロジーの他にも、反射区を利用した温熱療法やハンドリフレなども提供しており、ペットセラピーも含めて「ソレンセン式神経反射療法」のバリエーションだということですから、応用の幅という点でもとても興味深いメソッドです
さて、記事ではご友人とのエピソードを紹介させていただいたのですが、もう1つ印象的なエピソードを大塚さんから伺えたので、ここで紹介いたします。
それは、軽度の認知症だった大塚さんのお婆様とのお話です。
大塚さんは「ソレンセン式神経反射療法」を学ぶ中で、何人もの知り合いにモデルになってもらい施術の練習をしていました。その一環で、お婆様にも施術し始めたのだそうです。
施術を始めた当初、お婆様は要介護度1で、「冷蔵庫の中に同じ物がいっぱいある」というような状態でした。
大塚さんは週に1回、お婆様を後のサロンに送迎して、亡くなるまで8年ほど施術を続けたといいます。
認知症の症状には波があるものなので、大塚さんは目つきや表情、仕草から調子の波を観察しながら、辛抱強く、優しく向き合い続けたそうです。
現在のところ、認知症は進行する一方で治ることはないと言われていますが、大塚さんが施術を始めて以降は、お婆様の認知症は進行が緩やかになり、亡くなった時の要介護度は2だったとのことでした。
「調子が悪い時の祖母は、意識がどこかに行っているような顔つきをすることもありましたが、施術をするとちゃんと目の焦点が合って、手足の動きも良くなりました。祖母は最期の最期まで、私が誰かも分かったし、私の母親を自分の娘だってことも分かっていましたね。普通に会話ができたし、冗談まで言ってくれて、上手にやりとりができたんですよ」(大塚さん談)
一般に、技術においては数を熟すことで上達への道が拓けると考えられますが、大塚さんがご友人やお婆様にして差し上げたように、身近な大切な人に、心を込めて、細心の注意を払って向き合った経験は、施術回数で得られるものとは違った熟成の仕方というものがあるのかもしれません。
そもそも、大塚さんがセラピーを学び始めた時も、それをしてあげたい大切な相手の顔をはっきりと思い浮かべながらであって、「お店に来てくれる、どこかの誰か」ではなかったわけです。
そこから出発した大塚さんにとっては、施術をしてあげたい大切な相手が年を追うごとに増えていっているという感覚なのかもしれません。
だからこそ、大塚さんの笑顔は、いわゆる営業スマイルではなく、相手の心と体の健康のことを想っての自然な笑顔であるし、きっとその優しさは大塚さんの周りにいる人たちにも伝わっているのだろうと想います。
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