19年のパーソナルトレーナー歴を持ち、2022年からトータルビューティーサロン「Paradise(パラディソ)」を経営、そして2023年6月に行われたJMC(Japan Massage championship)のオイルマッサージ部門で優勝している、メンズセラピストShiraishiさんのセラピストライフを紹介します。
現在、Shiraishiさんは東京と大阪に店舗を持ち、名古屋、福岡にてレンタルサロンを利用した出張サービスをしています。
「Paradise(パラディソ)」は、バリのスパをモチーフにした内装が設えられていて、バリの神様の使いであるカエルをマスコットとしているトータルビューティーサロンです。
その特徴の1つは、スタッフ全員が男性でありながら、お客様は9割が女性であること。
少しずつ男性のお客様も増える傾向にあるそうですが、開業当初から行ってきた「キレイになりたいけれども、忙しくて自分のために時間を作れない40代前後の女性客」をメインターゲットにしたSNSが功を奏しているということです。
もう1つは、セラピストそれぞれが「スタッフオリジナルコース」を持っていること。
ボディメイク、リンパドレナージュ、フェイシャル、リフレクソロジー、ドライヘッドスパ、オイル腸活など、在籍するセラピストがそれぞれの得意な施術スタイルをサロンの中で活かしています。
Shiraishiさんが最も得意としているのは、ボディメイクです。
これは、筋トレやストレッチによるパーソナルトレーニングに、アロマオイルトリートメントによるボディケア、さらに整骨の技術による身体調整などが、1つのコースに合わさっていている、Shiraishiさんオリジナルのメソッド。
「僕のボディメイクは、運動で筋肉を破壊して、トリートメントで回復させるってイメージですね。お客様にはダイエットしたいっていう方もいれば、体のラインを整えたい方や健康的に筋肉を付けたいという方もいらっしゃいます。いずれにしても筋肉を鍛えることが不可欠ですが、それだけでは運動が苦手な方は続かないし、体のどこかに故障を抱えている方はそれ以前に解決すべきことがあるわけです。今の僕のスタイルはパーソナルトレーナー時代から温め続けてきた方法で、お客様からは『パーソナルジムとエステと整骨が合体したような感じ』って言われます」(Shiraishiさん談)
お客様の中には、以前にパーソナルトレーニングに通ったことがあるけれども長続きしなかったという方もいるそうですが、「Shiraishiさんのサロンだったらトレーニングの後にご褒美(トリートメント)が待ってるから続けられる」と喜ばれることもあるそうです。
パーソナルトレーナー時代には後進を指導する立場でもあったShiraishiさん。
彼がどのような経緯でメンズセラピストとしての新しい道を歩むようになったのか。
2023年JMC大会で優勝した時のことも合わせて、Shiraishiさんにこれまでの歩みを伺いました。
マンツーマンだからこそ相手の人生を変えられる
「僕は、中学生の頃、すごく太っていたんですよね。それで、ダイエットしなきゃって筋トレを始めたことで、僕の人生が一変したんです」
Shiraishiさんは自分の過去をそう振り返ります。
自己流でトレーニングを始め、結果が出てくるとますます面白くなって、本を読み漁ったそうです。
トレーニングを続けるうちに細マッチョな体になり、自分に自信が付いてきて、積極的な性格になっていったといいます。
「高校時代はちょっとした人気者だったんですよ」と、Shiraishiさんは照れたように微笑みながら話してくれました。
「その気になれば、人生を変えられる」という成功体験をしたShiraishiさんは、海が好きだったこともあり、高校卒業後に海上自衛隊に入隊。
そこでもやはり体への興味は尽きず、なんと同僚の隊員たちにトレーニング方法をレクチャーまでしていたそうです。
自分で身に付けたノウハウを教えてるうちに、相手の体がどんどん変わっていって、喜んでくれる。
そのことに、Shiraishiさん自身も喜びを感じ、「こういうことを仕事にできたらいいな」という気持ちが高まっていぅたそうです。
その後、海上自衛隊を退官したShiraishiさんは、大手スポーツジムに就職。
大勢の人を対象にしたスポーツインストラクターとしての活動を始めます。
その仕事の中で、彼は「パーソナルトレーナー」という仕事の存在を知ります。
当時の日本ではまだまだ認知度が低い仕事でしたが、「マンツーマンのほうが相手の人生を変えられるかもしれない」と、パーソナルトレーナーに魅力を感じ、Shiraishiさんはすぐに資格を取得しました。
トレーニングをみる対象が絞られたからかもしれません。
数年間、パーソナルトレーナーを続けるうちに、Shiraishiさんは「筋トレだけでは限界がある」という壁に当たったそうです。
「お客様は必ずしも健康な体でトレーニングに来ている訳ではないってことに気付いたんですよ。どこか怪我をされているとか、腰や肩に痛みを持っているとか。それに、トレーニングには負荷が掛かるので、ストレスが溜まるものなんですが、ストレスホルモンが出ると体が変わりにくくなるんです。なんとかそれを解決しなきゃって思ったんです」(Shiraishiさん談)
なんとShiraishiさんはパーソナルトレーナーとして働きながら、短大に通って2年かけて栄養士の資格を取り、その次に3年間かかって柔道整復師の資格を取ります。
さらに、アロマオイルトリートメントなどのセラピーを受けて、Shiraishiさんは自身のトレーニング理論を構築していきます。
同時に、Shiraishiさんはパーソナルトレーナーとしてのキャリアも積み上げていき、パーソナルトレーニングを事業の中心に据えた大手トレーニングジムの立ち上げにも参画したそうです。
そのトレーニングジムによる宣伝効果もあって、ここ数年、ダイエットやボディメイクを主な目的としたパーソナルトレーニングへの認知度が高まってきて、指導を受ける人口も増えてきました。
それにともなって、パーソナルトレーナーも増えていきます。
そこでShiraishiさんは、パーソナルトレーナーを対象にした講師としても活動し、生理学や運動学などを教えていたそうです。
この状況の中で、Shiraishiさんはあることに気が付いたそうです。
「パーソナルトレーニングを受ける人口が増えていくと、その中には体に故障を抱えた人も増えるんです。僕みたいに治療の勉強をしたトレーナーはとても少なくて、他のトレーナーはそれに対応できない。この差は、すごく大きかった。『これからは、これだな』って確信しました」(Shiraishiさん談)
その気付きを得てから、Shiraishiさんの中で「自分のサロンを作りたい」という気持ちがどんどん強くなっていったそうです。
彼はボディケアの技術としてアロマオイルトリートメントを学んだ後、東京、大阪を中心にジムとレンタルサロンを利用した、パーソナルトレーニングとボディケアを合わせたサービスを開始します。
一隻の船の上で一緒に幸せになる
そして、2022年、大阪の天満橋にサロン「Paradise(パラディソ)」をオープンさせました。
ですが、直後に東京のお客様が増えて行き、Shiraishiさん1人で行っていたこともあって、大阪の店舗を一旦クローズします。
そして2023年1月に渋谷区初台に東京店をオープン。その後、セラピストの仲間が集まったことから、2023年6月に大阪日本橋に大阪店を再オープンしました。
パーソナルトレーナー時代はShiraishiさんのお客様は男性が中心でしたが、Paradise(パラディソ)のオーナーセラピストとして歩み始めたShiraishiさんのお客様は、前述したように女性が9割です。
これまで積み重ねてきた知識や経験が、女性のお客様にも喜ばれていると実感する一方で、Shiraishiさんはまだまだ勉強することがあるといいます。
「僕としては、フェムケア、フェムテックをもっと勉強したいですね。女性の中には、PMSだったり、生理痛だったりと、女性の身体特有の問題を抱えながら生きている方もいます。それは男性である僕では分からないほど大変なことだろうなって思います。それを、できるだけ良い方向に持っていけないかな、と。フェムケアのできるボディーメイクアロマオイルセラピストになりたいと、強く思っています」(Shiraishiさん談)
次にサロン経営についての展望を訊いたところ、Shiraishiさんは笑顔でこんな話を語ってくれました。
「Paradiseという店舗を作る時に、このサロンを介して、お客様だけじゃなくて、ここに集まってくれたスタッフにとっても、人生が幸せになれるようなところを 作りたいと思いました。人にはそれぞれに得意なことも、苦手なこともあって、時には過去に負った傷も、将来の希望もあるはずだと思うんです。だから、このParadiseを1隻の船みたいな感じで、乗組員それぞれが力が発揮して、一緒に幸せになろう。人生を良くして行こう。関わってくれる人たちみんなが、幸せになればいいなっていうのが、僕の今後への思いですね」(Shiraishiさん談)
彼のサロンでは、所属するセラピストそれぞれが「スタッフオリジナルコース」を持っているというのは、こうしたShiraishiさんの理念が具現化されているからなのでしょう。
進む方向や基本的なスタンスは、船長であるShiraishiさんが決めるものの、船がお客様に提供するサービスは船員それぞれの個性を活かしてもいい、というわけです。
このスタイルであれば、スタッフ全員で同じメニューをするために技術レベルを合わせる必要はなく、むしろスタッフの多様性がサロンのメニューの豊富さになっていくことになります。
こうした運営スタイルは大変興味深く、新しいサロンの在り方を提示するものになるのかもしれません。
さて、冒頭でご紹介したように、Shiraishiさんは2023年6月に行われたJMC(Japan Massage championship)のオイルマッサージ部門で優勝しています。
Shiraishiさんに大会に出ようと思ったきっかけを訊きました。
「お客様には喜んでいただけているけど、僕は自分の施術を受けたことないんで、自分がどれくらいできているかは分からないんですよね。その時に大会の事を知って、自分の今の力を試してみたくなったんですよね」(Shiraishiさん談)
大会に向けてどんな準備をしたのかを訊くと、なんと「ほぼノープランでいきました」と笑顔で答えてくれました。
「30分という制限時間の中で、これをやろうというのはあったんですけど、施術の組み立て自体は、実際にモデルさんの体に触れた時に決めました。僕の特性上、準備し過ぎると、それに頭ががんじがらめになって、いいものが出せないと思ったんで。結果的にあまり緊張せずに臨めました」(Shiraishiさん談)
現在の日本では、10年前と比べれば「セラピスト」という仕事への認知度は格段に上がってきたように思えます。
しかし、男性のセラピストが女性のお客様に施術をするということを聞けば、眉を顰める人が普通にいるというのが、日本のセラピスト業界の現在地です。
「メンズセラピストの立ち位置をもっと上げていきたいと常々思っています。それが、今回、僕が優勝させてもらったことの意味なんじゃないかって思っています。性別関係なく、メンズセラピストの施術を受けるのは当たり前な時代を作るための一端を担っていきたいですね。だから、僕自身もっと世に出るべきなんです。来年は世界大会に出ようと思ってます」(Shiraishiさん談)
これまでも、セラピスト業界は日本の因習を乗り越えて、新しい価値感を提供してきたことで、現在があります。
そして、これからも、Shiraishiさんのように「現在地」を突破しようとするセラピストがたくさん現れて、新しい「当たり前」を作っていくのでしょう。
そして、その先に、男性のセラピストが誤解を恐れることなく胸を張って、すべてのお客様をお迎えできる。そんな世の中が来るのだろうと思います。
校長からのメッセージ
今回、Shiraishiさんにインタビューをさせていただくにあたって、彼自身の持っている特性「HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)」について事前に伺っていました。
HSPとは「環境感受性あるいは感覚処理感受性が極めて高い人」とされ、刺激に敏感であったり、特定の物事に強く拘ったり、あるいは得意なことと苦手なことの落差が激しかったりと、人によって「特性」は様々に表れるそうです。
もちろん、これはあくまでも「特性」であって、人の個性や性格の延長上にあるもの。
しかしながら、社会生活において何かしらの生きづらさを抱えている方が多いようです。
Shiraishiさんの特性としては、「人の名前や顔を覚えるのが苦手」「文字や数字を覚えるのが苦手」でありながら、「1度体で受けた施術はすぐに理解出来て、自分で再現できる」のだそうです。
そのため、柔整などの試験においては、ペーパーテストはからっきしなのに、実技はトップクラスだったといいます。
ただ、Shiraishiさんはパーソナルトレーナー時代に、生理学や運動学を教える講師もしていたということなので、「丸暗記」はできずとも「理解力」によってご自分の苦手を補っているのだろうと思います。
また、Shiraishiさんいわく「筋肉と会話する」ことで、お客様の体の不調や、体が求めていることに気付くことができるそうで、さらにご自身が「ヒーラー体質なのかな」というように、お客様の負の感情や不調を「もらってしまう」こともよくあるとのこと。
こうした特性があるからこそ、マッサージ大会には「ほぼノープラン」で臨むことが、彼にとってはベストだったわけです。
もう1つ、今回、お話を聞いていて分かったのは、Shiraishiさんは「中性的な」立ち位置にいるということ。
これも彼の特性と言ってもよいのかもしれません。
彼の略歴で「筋トレによって人生が一変した」というご紹介をしました。
しかし話を伺っていると、表現は難しいのですが「漢」と書いて「おとこ」と読むというような、あるいは男性ホルモンが満ち溢れているようなタイプではないというのが私の印象です。
話しぶりは柔らかく、聞き手に圧を与えないような、セッション系のセラピストにも通じる雰囲気がありました。
その点は、お客様からも好評のようで、Shiraishiさんもこんな話をしていました。
「パーソナルトレーナー時代から、お客様から『なぜか、なんでも相談できる』って言われることが多くて。今でも『ゴリゴリな男性とも感じないし、男性と女性の中間にいる感じがする』って言われます。これも自分のスペシャリティなのかなって思います」(Shiraishiさん談)
こうした彼の「特性」=スペシャリティが、「これからはフェムケアの勉強をもっとしたい」という気持ちとしても表れているのだろうと思います。
そこには、仕事のための勉強という意味もありますが、一方で「分かってあげられることが、悩める相手の癒やしに繋がる」という、共感の重要性を理解しているからだろうと思われました。
さて、ここまではShiraishiさんの「特性(スペシャリティ)」についてご紹介しましたが、これは本質的には、誰にでも当てはまることなのではないかと思います。
さらに言えば、セラピストとして活躍している方たちと話をしていると、Shiraishiさんのような特性を活かしている方は少なくないように思えるのです。
いかに自分の個性なり、特性なりを自覚して、それと上手に付き合っていけるかどうか。
それが、セラピストに限らず、個々人の生き方になっていくのだし、個性や特性を無視して生きようとすると「生きづらさ」が増してしまう、ということなのかもしれません。
その一例が、Shiraishiさんを始めとしたセラピストたちの生き方に見ることができるのではないでしょうか。
そして、彼ら、彼女らの生き方を伝えることが、次世代の人たちにロールモデルを示すことになるのではないか。そんなことを考えることができたインタビューでした。
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