北海道苫小牧市で12年に渡って自宅サロンを運営し、その一方で「自宅サロンアドバイザー」としても活動している、高坂美哉さんのセラピストライフを紹介します。
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高坂さんは自宅サロン「spring」で、全身へのオイルトリートメントによるリンパケアを提供しています。
リンパケアということもあり、むくみの解消にも効果的です。
ですが多くのお客様は深いリラックスを求めて彼女のサロンに来店していて、「次の日の活力になる」とお客様に喜ばれているそう。
現在、お客様は30〜70代の女性で、特に50代が多いとのこと。
定期ケアとして利用するリピーターで占められていて、なかには10年以上通い続けている方もいるそうです。
高坂さんは、お客様が語る最近の出来事について耳を傾けながら、その方の身体の変化を聞き出し、メニューの中に取り込んでいくようにしているといいます。
「お客様には、ご自分を大切にするための場所として、私のサロンを使って欲しい」と、高坂さんは笑顔で話します。
そして、「セラピストとは、そのための道具のようなものかもしれません」とも。
その心は、セラピストのためにお客様がサロンに来るというわけではないということです。
セラピストからすれば、お客様をサロンに招いている形となるのですが、実際にはお客様がサロンを選んで来ているというのが現実。
選択の主体がお客様にあることを、彼女はしっかりと見据えているのです。
「ハサミとか、包丁とかなら、研ぎ澄まされて切れ味の良いものを使いたいですよね。リラックスしたいときや、体について相談したいときに、“どうせだったあのサロンに行こう”と、お客様に選んでもらえるように工夫をして、選ばれたときにプロとして応えられるように、自分を整えておかなければいけない。それを最近すごく感じています」(高坂さん談)
セラピストになったきっかけを高坂さんに聞くと、意外にも「実は園芸店でバイトしたことだったんです」と笑顔で語ってくれました。
きっかけはアルバイト先で知った植物の力
彼女はもともと北海道の岩見沢市で生まれ育ちましたが、旦那さんの仕事に都合で苫小牧市に住むことになったそうです。
その頃にアルバイトをした園芸店で、植物の力に興味を持ち、高坂さんはアロマセラピーの勉強をすることに。
そして、アロマテラピーの資格を取った頃に、偶然、知人がリンパマッサージの講師を始めた事を聞き、興味を持ちます。
そこで、初めてトリートメントを受け、その気持ち良さを知り、リンパマッサージの資格を得るまでになります。
「資格を取っただけで、それで仕事になるほど世の中はあまくないことも分かっていたんです」と語る高坂さん。
そんな彼女がサロンの開業を決意する出来事がおきます。
お母様の若年性痴呆症が分かったのです。
介護の必要性を見据えて考えた時、普通に企業に勤めて働くことは難しいだろうと考えた高坂さんは、自宅でできて、時間の融通を利かせやすい仕事として、「自宅サロン」を始める決意をします。
それからの3ヵ月間、高坂さんは地元で無料モニターを募り、実践経験を積み続けたそうです。
こうして2009年6月に、高坂さんは苫小牧市に自宅サロンをオープンします。
しかし、サロン経営者としては初心者の高坂さんは、さっそく壁にぶつかります。
それは「集客」という壁。
セラピストの多くがぶつかる壁と言えます。
「無料モニターで練習をしていた地元ならともかく、当時は知り合いのいない土地でサロンをオープンしたんです。なので、6月はまるっきり誰も来ず、実際にお客様が来たのが7月になってから。最初の数ヶ月間はとにかく集客に力を入れました」(高坂さん談)
「自分で何とかしなければ」という思いで、ホームページを自作。
さらに外出する際には必ず名刺とチラシを持っていって、喫茶店から美容院、医院、病院のナースステーションまで、行く先々でチラシを置いてほしいとお願いして回ったとのこと。
なお、チラシを置いてもらえるお店に対しては、そのお店のチラシをサロンに置いたり、自分が常連になるなど、従業員との信頼関係を深めていく事を心掛けていたそうです。
これは、ホームページでいう「相互リンク」をリアルで行うようなものといえます。
いかに自分のことを知ってもらえるか
そうやって、行く先々で自分の活動について話し、ひたすらに人の目に触れる場所にチラシを置いてもらっていったことで、徐々にお客様が来店するようになります。
また、ホームページで出していた格安メニューの効果が次第に出始めて、サロンはどんどん忙しくなっていったそうです。
ただ、自宅サロンでは、サロンワークの他に、当然ながら家事もしなくてはいけません。
しかも、格安プランの枠ばかりが埋まってしまい、自転車操業状態でヘトヘトになっていた時期が5年ほど続きました。
そこで、高坂さんは通常メニューの枠に予約をしてもらえるように工夫をしたそうです。
すると、料金の安さではなく、また他のセラピストではなく高坂さんを本当必要としてくれるお客様が、リピーターとして通い続けてくれるようになったのです。
集客に苦労した経験から、高坂さんは「リアルで会って、自分のことを知ってもらうこと」の重要性について話してくれました。
「ネットでの集客はやらなければいけないことなんですけど、来店までは時間がものすごくかかります。2年前から気になって見ていた、という方がいるくらいなので。」と語る高坂さん。
「それよりも、リアルに会った方がお客様になってくれる確率が高いし、信頼関係を築くまでの時間も短くなる、というのが私の経験から言えることです」(高坂さん談)
もちろん、自宅サロンの経営にとっては一度来店してもらうことがゴールではありません。
長くリピーターとして通い続けてくれることも大切なことです。
そのためには、「お客様が望むことの100%以上のことをしなくてはいけないのかな」と彼女は語ります。
むくみがとれる、リラックスできるなど、お客さんの望みに応えることは当然のこととして、触れ方やタオルの掛け方など「お相手を大事にしているという所作」から気持ちが伝わることで、信頼関係が強くなり、リピーターになってもらえる第1歩になるはず。
セラピー技術以上のものが重要になることを、高坂さんは教えてくれました。
今後の目標を聞くと、高坂さんは「現状維持が私にとってすごく大事な目標なんです」と言います。
現在は、良い関係を築けているお客様がリピートしてくれていて、自分をケアする時間も取れる働き方が出来ているそうで、
「12年がんばってきてよかったって、今すごく思うんです」と少しはにかみながら語ってくれました。
「1日1人、目の前のお客様にじっくりと関わりながら、その方の人生に寄り添える。こんな毎日が幸せですし、これが私のセラピストライフなんだと思います」(高坂さん談)
校長からのメッセージ
高坂さんのサロンで提供するメニューは、90分か、120分のオイルトリートメントに、オプションを加えるスタイルで、平均単価は11,000円ほど。
サロンは週4日で稼働して、お迎えするのは1日1人。
すでに書きましたが、現在のお客様はほぼリピーターで、多くの方が2、3ヶ月先まで予約を入れてくださっているとのことです。
なお、現在はコロナ禍ということもあって、新規の集客はしていないそうです。
さて、今回インタビューした高坂さんのケースは、これからサロンを開業したいと考えるセラピストにとって、とても参考になるはずです。
というのも、サロン経営が安定するまでの過程を話してくれているからです。
私は以前からセラピストライフを3つのスパン(ランエリア、ブレイクエリア、フライエリア)に区切って説明しています。
ランエリアは、自分の存在を知ってもらうための活動をひたすらに行う期間です。
彼女は出会う人々に自分の活動を伝え、チラシを置いてもらえる場所を増やして行ったことに加え、ホームページ+格安プランで、とにかくサロンに来て、セラピーを体験してもらうことで、このエリアを駆け抜けました。
ブレイクエリアは、ランエリアの成果でお客様がどんどん入る時期ですが、忙しさのあまりに体を壊すセラピストも少なくない期間です。
彼女も、サロンワークと家事の両立でパンク寸前だったようですが、意識的に予約の取り方を工夫して、ここを乗り切っています。
フライエリアは、安定飛行する期間です。
サロン経営はリピーターに支えられていて、セラピストも心と体が安定してサロンワークを続けられるような活動スタイルに落ち着きます。
ただ、フライエリアに入れば、ずっと同じ事の繰り返しで安定を保てるというわけでもありません。
当然、長くリピートするうちに、お客様もセラピスト本人も齢を重ね、生活環境に変化が訪れることもあるからです。
そうした変化はお客様1人ひとりに訪れますから、会話や観察を通して変化を感じ取る感覚とともに、新しく提案していく力も必要になるでしょう。
つまり、インプットとアウトプットがされ続けていくのです。
さらに、セラピスト自身は常にベストの施術を提供できるように、自分の心と身体に向き合っていなければなりません。
このように説明をしますと、高坂さんがインタビューで話していた「現状維持」がどれほどの価値があるのかが分かってもらえると思います。
現状維持は一見して「停滞」のように思えますが、その実、安定飛行を続けられる現状維持は、高いバランス感覚に支えられているということなのです。
セラピストとしてのポリシーを聞くと、「一流の黒子である、というのがポリシーです」と高坂さんは笑顔で答えてくれました。
舞台上でスポットライトを浴びる主役(=お客様)の背後で、舞台が滞りなく進むように動き回る黒子(=セラピスト)がいる。
そんな光景を思い浮かべるとき、黒子をいとおしく思ってしまうのは、きっと私だけではないはずです。
また、主役にも「あなたのような黒子にずっといてほしい」と思われるのなら、黒子冥利につきる、というものなのかもしれません。
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