岐阜県多治見市で自宅サロン「彩心香(さいしんか)」を営みながら、岐阜県と愛知県の産婦人科医院でも活動している山田啓子さんのセラピストライフを紹介します。
山田さんが産婦人科でセラピーを提供し始めたのは21年ほど前。自宅サロン「彩心香」をオープンしてからは11年ほどになります。
サロンよりも、産婦人科での活動の方が開始時期が早いというのは、なかなか珍しいことかもしれません。
ここでは、自宅サロンでの活動について紹介します。(産婦人科での活動は、【産婦人科アロマセラピスト編】をご覧ください。)
山田さんのサロンのお客様は、50代の女性が多く、体のメンテナンスとして定期的に利用するリピーターがほとんどなのだそう。長い方で、10年以上も通い続けている方もいるとのこと。
お客様は、サロンで日頃の疲れを癒やし、リラックスして、家族のことやお悩みなどの世間話をするそうですから、山田さんがしっかりと信頼関係を結んでいることが分かります。
「私が心地良いな、と思っている時の方が、お客様もリラックスしていることがよく分かります。同時に、お客様がリラックスしているから、私も心地良くなる。その両方だと思いますね。常に勉強させてもらっていると思いながら、お客様に接しています」(山田さん談)
山田さんのサロンの特徴は、「嗅覚反応分析」を取り入れている点にあります。
この嗅覚反応分析を簡単に説明するならば、今の状態に適したな精油やトリートメント方法などを、お客様の脳に訊く手法と言えそうです。概略としては次の様になります。
まず、トリートメント前に、お客様に8本の香りのボトルを嗅いでもらい、それを好きな順に並べてもらい、その結果から導き出した数値をイオンマトリクス図に描き込むと四角形のグラフになります。
心と体のバランスが整っていればグラフは正方形に近づき、反対に乱れていればグラフも歪み偏りが出ます。
お客様の今の状態、ホメオスタシス(恒常性)の状態を可視化できるようです。(国内外での特許取得)
視覚化された情報を元に、ホメオスタシスを整えるためのアプローチを導き出すのですが、トリートメントに使う精油の他に食べ物や運動なども分かるとのことです。
この分析法は嗅覚と本能が密接に関係していることを利用しているので、お客様が表層意識で認識している主訴と、分析によって導き出されるケアが違うこともあるそうです。
「ホリスティックにお客様を把握することが、セラピストには求められるのですが、例えば肩こりが主訴だったとしても、それが血行の悪さからきているのか、あるいは筋肉の疲労なのか、自律神経の乱れなのかによって、アプローチが変わってきます。嗅覚反応分析では、そうした主訴に隠れた情報も把握できるんですね。トリートメントで使用する精油をお客様の主訴から決めるのではなく、好きな香りから体が欲していることなどを分析していきます」(山田さん談)
また、嗅覚反応分析からは思考の癖までも分かり、体の不調が心の悩みから来ているなんてこともあるそう。
分析結果を読み解く内に、お客様は自分の悩みの正体に気づき、心の持ちようを変えていく方もいるとのことですので、とても興味深い話です。
10年後の自分はどうしていたいのか
セラピストとして活動をする以前、山田さんはいわゆる専業主婦であったとのこと。
家事や子育てなど、毎日忙しく過ごしていたそうですが、「楽しいこともたくさんありましたが、今とは全然違う世界にいた」とその頃のことを語ってくれました。
社会との接点が少なくなってしまう傾向にあると一般的にはいわれている専業主婦としての日々。
人間関係が自宅の周囲と、子どもを通じた知り合いばかりになりがち。どうしても身の回りの狭い世界で行動する内に、外の広い世界との接点が減ってしまいます。
実は20年前の山田さんも、そんな状況に息苦しさを感じる1人でした。
ある日、山田さんはふと「10年後の自分がどうしていたいかな」と考えたそうです。そして、自分も何か資格を持って仕事がしたいと思うようになったそうです。
そんな頃、彼女はラベンダーの香りで安眠できたという経験をしたことで、香りの力への好奇心を持ち始めたそうです。
そして、偶然、名古屋にあるアロマテラピーのスクールの広告を目にして、学んでみたいという思いが強くなります。
ただ、岐阜から名古屋のスクールに通うとなれば、今まで通りに家事が出来なくなる部分が出来てしまいます。
それでも!と家族に自分の思いを打ち明けたところ、家事や子育てを分担してくれるなど、協力してくれることになったそうです。
こうして山田さんはアロマテラピーを学び始めたのですが、実はそこは病院で働けるセラピストを育成するための学校。
「すごく試験が難しくて、やっとのことで合格できましたよ」と山田さんは笑顔で振り返ってくれました。
そして、そのスクールの縁で、アロマテラピーを取り入れようとしてる病院との接点ができ、山田さんは産婦人科で産後のケアとしてセラピーを提供するようになったのです。(【産婦人科アロマセラピスト編】参照)
その後、様々なアロマテラピーも学び、薬理作用などへの理解を深めるなど、山田さんはアロマテラピーをより安全に提供する方法を模索していきました。
そんな山田さんがサロンを開いたのは、2011年のこと。アロマの安全で正しく使うための知識を広めるために、認定校を作ろうと考えたことがきっかけでした。
そこで、山田さんはアロマテラピーサロンとスクールを併設する形で開業します。
最初は、他のセラピストが経営していたサロンをシェアしてもらう形でスタート。
その後、レンタルサロンへ移転。
さらに山田さん自身が実家に居を移したことを機に、現在の自宅サロンへと場所を変えていきました。
産婦人科での活動と、サロンとスクールの経営をバランスよくこなしながら、さらに嗅覚反応分析を学び、取り入れるようになったのですから、山田さんの探究心には驚かされます。
自宅サロンを続けるために大切なことを訊いたところ、「やっぱり信頼関係。それから無理しないことかな」と笑顔で山田さんは答えてくれました。
「信頼関係が大切なのは、お客様でも、家族でも同じですね。そのためにも、自宅サロンであれば家族にしわ寄せがいかないようにしたいし、自分も無理をしないようにしたいです。自分の体も大事だし、家族も大事。私はそこにベースがありました。あと、病院の仕事は割とルーティーン化しているので、なんとなく一生懸命やっていたら、20年過ぎていたという感じです」(山田さん談)
山田さんは「なんとなく一生懸命やっていたら、20年過ぎていた」と言いますが、よく聞いてみると、嬉しいこと、悲しいこと、苦しいこと、様々な波があった20年だったようです。
それでも20年続けて来れられたのは、セラピーを介してお客様や妊産婦さん、生徒たちと、感謝の気持ちで繋がってきたからなのでしょう。
改めて、セラピストとは人を活かし、また人に活かされる存在なのだということを再確認できたインタビューでした。
校長からのメッセージ
現在、山田さんのサロンを利用するお客様のほとんどがリピーターとのこと。
彼女の今のセラピストライフは、サロンとスクール、産婦人科での活動、そして家族。そのすべてがバランス良く回っているのだろうという印象を受けました。
それは、山田さんの実績を表しているのであり、お客様はもちろん、産婦人科のスタッフとも、しっかりと信頼関係を結んで来られたからこそ、積み上げられた20年のセラピストライフであり、1人ひとりと丁寧に向き合ってきたことの結果なのだと思います。
さて、山田さんのサロン「彩心香」にはスクールが併設されています。アロマテラピーの認定校であり、嗅覚反応分析も教えています。
山田さんがスクールを始めたときは、「アロマの安全で正しく使うための知識を広めるため」とのことでしたが、話を聞いていると、また別の思いも込められていることが分かりました。
それは、生徒さんの世界を広げること。ここでいう「世界」とは、知識の及ぶ範囲のことです。
世界が広がると、見える景色も変わりますし、行ける場所も増えます。
狭い世界の中で生きていると、まるで逃げ場がないように思えたり、自分に厳しい現実しか見えなくなりがちです。
すると、追い詰められて、息苦しさを感じるもの。それは、専業主婦時代の山田さんの姿と重なります。
山田さんが生徒さんに世界を広げて欲しいと願うのは、山田さん自身が様々な人と会い、知識を得ることで、自分の生きる場所を見出してこられたという経験からなのだと思います。
「昔の私が悩み苦しんでいた世界とは、今はもうぜんぜん違う世界にいるという感覚です。せっかく人生なのだから、良い形で生きたいじゃないですか。専業主婦だった私がアロマセラピーを学ぶことで、いろんな人と出会い、広い世界を知ることができたんです。生徒さんにも新しい世界を知って欲しいな、という思いもありますね」(山田さん談)
知識を得たり、人と会ったりすることで、物事を見る角度が変わり、その途端に身の回りの世界の見え方が変わったという経験をしたことがある人は多いことでしょう。
山田さんの話を聞いていると、嗅覚反応分析も新しい視点を得るための大切な一つに思えてきます。
お客様の主訴からその解決に適した精油を選ぶ場合、セラピストごとの知識量や先入観に引っ張られることも考えられます。
つまり、セラピストから見える世界の中での選択肢を、お客様に提示している。
そこで、お客様の脳が求めているものを数値化してグラフに落とし込んでみる。
すると先入観無しにデータを見ることができ、思いも寄らないキーワードが浮かび上がる。
それは、まるで自分の死角のようなもので、死角にある限りは近くにあっても大事なものの存在に気がつかないわけです。
自分の視界の外には、意外な答えが落ちていることがある。そんな体験を繰り返すことで、視野を広げる能力は高まっていくのではないでしょうか。
ならば、セラピストはお客様の世界を広げる役割も担っているのかもしれない。だからこそ、セラピストは学び続ける必要があるのだろう。
山田さんのインタビューを聞きながら、ふとそんなことを考えました。
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