愛知県名古屋市にて18年にわたってセラピストとして活動し、6年前から個人サロン「le cocon(ル・ココン)」を経営して、スクールも運営している、あしのさちこさんのセラピストライフを紹介します。
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名古屋市西区、庄内緑地にほど近い住宅街のマンションの一室に、「足裏セラピスト」あしのさんのサロン「le cocon」はあります。
le coconとはフランス語で「繭(まゆ)」という意味で、繭に包まれたような安心感をお客様に感じてほしいという願いがサロン名に込められています。
あしのさんは「足裏セラピスト」という肩書で活動していますが、足裏から頭まで、全身をケアするメニューがサロンには用意されています。
では、なぜ足裏セラピストなのか。それは、あしのさんが足裏の情報からお客様の全身の情報を読むことを得意としているから。
あしのさんは、独自の「足裏診断」によって足裏から得た情報をもとにお客様の状態を推測し、オーダーメイドで施術を提供しているそうです。
「足裏には、その人の全身の状況が映し出されてるので、体の状態だけでなく、姿勢の癖、考え方の癖までも見えてきます。それだけじゃなくて、将来に起りそうな不調も何となく分かります。そこには、10年近く介護の現場にいた経験が大きいですね」(あしのさん談)
サロンは女性専用ということもあって、お客様の多くは40、50代の女性。
社会でも、家庭でも重要な役割りを担いながらも、年齢による心身に変化が起きやすい年代です。
あしのさんは、お客様1人ひとりの足裏をよく見て、触れて、深く観察することで、お客様自身が気づいていない、心や体に溜め込まれた疲労に目を向けるようにしています。
そして、優しく労るようなトリートメントを通して、頑張りすぎている部分や、気をつけたいことに、お客様の意識が自然と向くように促しているようです。
あしのさんが、今の活動に至るまでの経緯を伺いました。
大切にされていると感じられた経験から
あしのさんは、海と山のある、自然豊かな土地で生まれ育ち、活発な少女時代を過ごしました。その後、福祉の専門学校に通い、介護福祉の世界に入りました。
介護福祉はお年寄りの生活をサポートする大切な仕事ですが、肉体的にも重労働で、夜勤もあるような大変な業界です。
あしのさんは2年間ほど、お年寄りの介護に力を注いだ後、他の業界も経験してみたいと考えて、アパレルメーカーへ転職します。
熱心に働く内に店長を任せられるようになった あしのさんでしたが、一日中ヒールを履いたまま立ち仕事を続けたことで、足のむくみや痛みに悩まされたそうです。
そこで彼女が通い始めたのが、リフレクソロジーサロン。
「朝、靴を履いた瞬間から足が痛い状態で、1日過ごすのが本当に苦痛でした。店長をしていたので、そのストレスも大きくて。それで、リフレクソロジーサロンに行くようになりました。サロンでは、セラピストさんととくに喋るわけでもなかったんですけど、施術を受けていると“大切にされている”と感じられて、とても癒やされたことを覚えています」(あしのさん談)
その後、勤めていた店舗が入っていたテナントビルが改築されることになり、それを機に「手に職を付けよう」と考えた あしのさんは、フットケアを学ぶためにセラピースクールに通うことに。
そして、卒業後にスクールの系列店に就職。あしのさんはセラピストとして歩み始めたのでした。
セラピストを始めた頃は、楽しくも学ぶことの多い毎日だったそうです。
そして、実績を積むうちに、ここでも店長を任せられるようになり、店の運営やスタッフの育成などをするようになります。
ただ店長としての仕事に追われ、現場から遠のくにつれて、あしのさんはストレスを感じるようになったそうです。
「自分が誰かを癒やすという、その元気がなくなってしまった」と、彼女は当時を振り返ってくれました。
あしのさんは、しばらくセラピスト業界から離れようと考え、10年ぶりに介護福祉に戻ることにしました。
しかし、不思議なことに、彼女が身につけたセラピースキルは、あしのさんにセラピストライフを歩ませ続けることになります。
その人が語る人生と足裏がそのまま重なっていく
なんと就職を決めた老人介護施設から、「利用者にリフレクソロジーをして欲しい」と言われたのです。
その時、なぜか、あしのさんは「ここでなら続けられるかも」と思ったそうです。
それまで若い人ばかり施術していた あしのさんは、「お年寄り相手にどこまでやって大丈夫だろうか」と探りながら、施設内での施術を始めたそうです。
すると、そこでの経験が、‟新たな感覚“を あしのさんにもたらすことになりました。
「お年寄りには何かしらの不調を持っている人もいます。普段、辛そうにしているお年寄りでも、足の施術をしている間は、顔が安らいで見えました。実際に“この時間が本当に幸せ”と言われたこともあります。施術は1人30分くらいの短い時間でしたが、一対一で向き合える30分をとても贅沢な時間だと感じていました」(あしのさん談)
あしのさん自身が、アパレル店長時代に施術を受けて感じた「大切にされている」という感覚。
その感覚と、入所者に施術をする中で感じてもらえた「幸せ」とが重なり、あしのさんは「ああ、この実感と空間で、いいんだ」と気がついたそうです。
老人介護施設での施術は、もう1つ、大切な経験をあしのさんにもたらしました。
施術中にポツリポツリと語られる入所者の人生と、足の特徴がそのまま重なってみえるようになったのです。
反射区を参考にしながらも、それにだけに囚われることなく、足の硬さや変形具合を確かめていくと、そのお年寄りの体の不調と符合する特徴があって、それがどんな仕事や生活習慣に関係しているかなど、対応関係がだんだん分かるようになっていきます。
まるで足を「問題集」と喩えるならば、入所者の語る人生や体の状態には「解答」が隠されているようです。
あしのさんは、老人介護施設でたくさんの「問題と解答」に触れることで、そこに隠された法則性に、身をもって気がついたということなのでしょう。
それは若いお客様への施術だけでは得られない、貴重なノウハウの蓄積だったはずです。
こうして老人介護施設で経験を積んだ あしのさんは、リフレクソロジーサロンの立ち上げに誘われて、セラピーサロンの現場に戻り、その後、自分のサロンを持ちました。それが現在の「le cocon」です。
個人サロンをオープンして6年。実感したことを聞くと、「今が一番楽しい」と笑顔で答えてくれました。
セラピストを続けていく上で必要なものを聞くと、「何でもフラットに話せる仲間ですね」と言います。
モチベーションの維持にも、自分を客観的に見るためにも、わかり合える仲間がいることが大切なのだそうです。
今後は、足裏診断以外にも、非言語コミュニケーションを学び、組み合わせることで、より多くのお客様に寄り添えるようになるのではないか、と笑顔で話してくれました。
お客様だけでなく、家族や友人に「大切にしている」ことを伝えるには、時に言葉よりも雄弁な手段があります。
疲れ果てた足を、まるで繭の中のいるかように温かい手で包まれた時。人生を支え続けてきた足を、優しく労うようにケアされた時。
言葉にしなくても「大切にしている」というメッセージが心に伝わる。
その彼女自身の経験が、あしのさんのセラピストライフを、これからもきっと後押ししていくのでしょう。
校長からのメッセージ
あしのさんのサロン「le cocon」のお客様は、現在はリピーターが9割ほどで、新規のお客様は
既存客からの紹介と、HPやSNS(Instagramなど)を見ての来店なのだそうです。
「足裏診断」や「足つぼ」といった、足裏へのこだわりが、やはり魅力なのでしょう。
反射区だけでなく足の形や硬さなど、見て、触れて確かめられる要素もあるので、お客様の実感も違ってくるのかもしれません。
また、姿勢や体の使い方の癖、考え方の癖などは、人に指摘された方が気がつきやすく、また自分自身で答え合わせができるはずです。
こうした現状の分析に対するお客様の納得感が高ければ、将来的な予測にも説得力が増すというものでしょう。
お客様との信頼関係を築くためにも、とても興味深いメソッドです。
さて、今回は、あしのさんのセラピストライフを紹介しました。
彼女は介護福祉から社会人生活をスタートさせ、いったん別の業界(衣料品販売、セラピーなど)を経験した後に、介護業界に戻り、その後、セラピストとして独立開業するという経緯を辿ります。
その話を聞きながら、きっと介護業界に戻った時に見えた景色は、以前とは全く違って見えていたのではないかと思いました。
一般論ではありますが、若い頃には「仕事は与えられるもの」と感じられるのに、スキルと経験を身につけ、ある程度の裁量を持つと、「仕事は自分で作るもの」に変わっていくものです。
そして、仕事で充実感を得るためには、「自分の仕事が、誰かのためになっている」という実感が必要だと言われてます。
逆に「誰か(経営者)の指示で仕事をしている」となると途端に主体性が低下して、充実感も減ってしまうことがあるとよく聞きます。
また、自分の仕事で喜んでくれる「誰か」の顔がイメージできるほど、充実感が強くなるとも言われます。
今回のインタビューを振り返ってみると、あしのさんはアパレル業でも、サロン勤務でも、お店を任されるほどの能力を持っています。
しかし、現場を離れるにつれて、疲労とストレスを溜め込んでいき、彼女いわく「やさぐれた」状態になってしまう。
多くのセラピストがそうであるように、あしのさんもおそらく相手の顔が見える現場でこそ、やり甲斐を見いだせるタイプなのだろうと思います。
だからこそ、10年越しに戻った介護の現場で、あしのさんは自分の仕事のスタイルを発見できたのではないでしょうか。
介護の現場では、「自分の仕事」で喜ぶ相手の顔を目の前で見ることができて、「ああ、これでいいんだ」という実感を得たのだと思います。
さらに、たくさんのお年寄りの足に触れることで自然にデータが蓄積されていって、結果的に介護の現場で得た経験が、オリジナルメソッドの構築につながり、今、あしのさんは自立したセラピストとして歩んでいます。
社会人生活スタートからずっと同じ介護の現場にいたなら、また違う人生もあったでしょう。
しかし、別の業界を行き来したことで、結果的に今の あしのさんがいる。
こうしたお話を聞く度に、セラピストライフにはこうでなければならないという形はないのだと、私はつくづく思うのです。
あしのさちこ
https://www.instagram.com/ashi_sachi5/
プライベートサロンle.cocon
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