愛知県津島市にて、13年にわたってカウンセラーとして活動している「株式会社ヒューマンカウンセラーズ」代表、小西宏一さんを紹介します。
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小西さんが運営する「株式会社ヒューマンカウンセラーズ」では、個人を対象としたカウンセリングと、企業の従業員を対象にした研修の、2つを事業の柱としています。
この記事では、企業研修を中心にご紹介します。
小西さんは、9年ほど前から、さまざまな企業研修の講師として活動しています。
近年は、年間100件以上の研修を行っているとのことですので、押し並べて3日に1度くらいのペースで活動していることになります。
小西さんは個人カウンセリングも平行して行っているので、研修の準備も含めれば大変な労力だと思います。
依頼される講習内容は、メンタルヘルス、アンガーマネージメント、コミュニケーションスキル、ハラスメントなど、最近ニュースや雑誌でも話題によく上がるテーマ。
IT業界からの依頼が圧倒的に多く、1000人規模の企業からも依頼が来るそうです。
「IT業界だと、例えばシステムエンジニアに、プログラミングは得意だけど人とのコミュニケーションは苦手という方がいます。ですが、実際に話をしてみると、苦手だと思い込んでいるだけという人は多いです。あと、傾聴というスキルだけでも知っていただくと、仕事にすごく有効ですね。最近では、本などで読んで知っている人も増えてきたけれど、実際には傾聴しているつもりになってるだけという人は結構いますよ。こうしたコミュニケーションスキルを理解してもらうには、実際にワークをして体験してもらうのが一番、手っ取り早いんです」(小西さん談)
小西さんの場合、産業カウンセラーであることに加えて、ご自身が25年にわたって企業に勤め、組織の中で働いてきた経験もあることも、企業から依頼されやすいポイントであるようです。
とくに、実例を引き合いに出しながらケーススタディができることが、研修参加者から「分かりやすい」と喜ばれているそうです。
教科書で学んだ理論ではなく、仕事の現場でカウンセリングスキルを生かしてきた「現場感覚」が、小西さんの講師としてのバックボーンになっていて、研修参加者から共感してもらえるようです。
分かりやすいことを第一に
小西さんが初めて企業研修をしたのは、今から9年ほど前のこと。
地元の建築メーカーでの2時間の研修でした。「顔は汗をかいてないですけど、もう背中はびっちょびっちょでした。もうこんなに汗かくかって思うぐらい」と、小西さんは当時を振り返ってくれました。
それ以降、様々な企業からの依頼に応えていったそうですが、使用するテキストやタイムテーブルなど事前に準備をしても、現場の雰囲気や理解度によって進め方を変えていくために、時間配分を失敗してしまうこともあったそうです。
「分かっていただけると嬉しいので、それがモチベーションになっている」と小西さんは言います。
伝えるためのアイディアやネタが思い浮かぶとメモに書き留めておいて、次の研修で活かそうと常に考えているとのこと。
また、テキストの内容にはついては最新の情報を加えたり、デザインを見直すなど、少しずつ改善してきたそうです。
そうした創意工夫を小西さん自身が楽しんでいる様子もうかがえました。
なお、小西さんはパソコン作業がそんなに得意ではないとのことで、テキスト作りに関してはご友人に手伝ってもらえるのだそう。
その方は心理学やカウンセリングを勉強したことがない方とのいうこともあって、研修を受ける人と同じ目線で意見をもらえたり、デザインを工夫してくれることに、小西さんは感謝していました。
次に、研修講師として大切なことを聞きました。
「分かりやすいことを第一に心掛けています。中学2年生ぐらいであれば、聞いて分かるような話をしようと。もちろん、専門用語を使わざるを得ないことも、すぐには理解できない部分もあるかもしれません。だから、2時間の講義だけで覚えようとしなくていいですよと言いますし、お渡ししたテキストにメモして自分なりのテキストを作ってくださいね、とも言うようにしています」(小西さん談)
私たち日本人の癖なのかもしれませんが、授業や講習に出ると一言一句暗記しようとして、結局いくつかの用語を覚えただけで分かったつもりで終わってしまう、ということがよくあると思います。
ですが、本当に学ぶべきなのは考え方であり、実践する力であるはずです。
実例を聞いて、自分の立場に落とし込んで考える力を付けることこそが研修の意義であり、小西さんもそうした思いを持って、講師として立ち続けているそうです。
「最近、厚生労働省のメンタルヘルスに関する通達が会社にされていることもあって、メンタルヘルスの大切さが理解されつつあります。ただ、経営者の年齢が高い場合、いまだに“気合いで何とかなるだろう”っていう人もいますね。でも、実際は気合いでは、何ともならんのですよ。また、働き方改革もしかりなんですけども、メンタルヘルスを語る上で、睡眠はとても重要なんです。睡眠をしっかり取っている企業では労働生産性が高くなって、残業時間も少なくなるのは事実としてあるんです。メンタルヘルスへの取り組みを費用対効果で見ると、すぐに効果が出るものではないので、そうした実際の事例を経営者に示すことも大切ですね」(小西さん談)
小西さんは自身のことを「叩き上げのカウンセラー」と表現していました。
大学で心理学を専攻したわけではなく、25年の会社員としての経験の中で、心理学やカウンセリングの知識を学び、実践してきたからです。
だからこそ、現場で働く人の心も、経営者の心も分かった上で話を聞き、同じ目線で言葉を伝えることができるのでしょう。
そして、年間100件以上という実績には、企業からの信頼だけでなく、きっと小西さん自身の熱量も、そこに現れているのだろうな、と思いました。
校長からのメッセージ
現在、小西さんの「株式会社ヒューマンカウンセラーズ」では、自社で請け負う講師業務の他に、独立行政法人「労働者健康安全機構」が全国47の都道府県に設置する「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」からの委託を受けて研修を行うこともあります。
つまり、労働者の心身の健康を促進する行政サービスと連携する形をとっているのです。
もちろん行政サービスの一環としてだけでは、提供できる研修内容には制限があります。
ですので、行政サービスとして企業と繋がりを作っておいて、その後に企業ごとに各現場により即した内容で研修を請け負っていくという流れがあるそうです。
いわば、届けるべき人に、届く場所にいるというポジショニングをしっかりととっていて、それが年間100件以上という件数に反映されているのです。
小西さんに研修講師としての活動を継続する上で大切にしていることを聞いた時、「当初の目標を忘れずに、やり続けるということでしょうか」と小西さん笑顔で語ってくれました。
「当初の目標に向かって、一日半歩でもいいので、そこに近づくというイメージで、積み重ねていくのが大切だという気がします。私の目標は、1つはカウンセラーを一般に認識してもらうということ。2つ目は、カウンセリングが対人援助として有効なものであることを分かってもらうってこと。3つ目は、カウンセリングでちゃんと食べていける方法を確立すること。これは 僕の3つの柱なので、それを少しずつ積み重ねてるだけなんです。だから、教えてくださいと言われた時は、包み隠さず全部お話しします」(小西さん談)
そう、彼にとっての「当初の目標」に近づくための手段の1つとして、行政との協力関係を築いていて、企業研修というスタイルをとっているというわけです。
さて、先ほどの小西さんの話に「3つ目の目標」として出てきた「カウンセリングでちゃんと食べていける方法を確立する」という話題にも触れておきたいと思います。
小西さんは後進のカウンセラーの育成についても考えているのですが、その方法の1つとして各企業の中で養成するという形を思い描いているといいます。
実際に研修をした企業の人事部や総務部にも、「社内で養成してはどうですか」と提案しているのだそうです。
つまり、過去の自分が大手スポーツ用品販売企業にいた頃と同じようなスタイルをイメージしているわけです。
考えてみれば、すべての会社には会社ごとに風土のようなものがあって、現場で発生する問題やその要因は少しずつ違うはず。
ならば、それを肌で知っている社員の中にカウンセリング能力のある人がいた方が、現場にマッチした方策が考えやすいとも言えます。
カウンセリングの才能があって、社内の人間関係をそれとなく解決できるような人材は、実はどこの会社にもいるのかもしれません。
もちろん、現在の小西さんのように外部から見て、客観的な提案ができるカウンセラーも必要でしょう。
要は、社内に常駐しているカウンセラーと、外側から見るカウンセラーの両方がいて、互いに情報交換しながら企業のメンタルヘルスを守り、延いては生産性も高めていく、という在り方が見てくるのではないでしょうか。
カウンセリングルームでクライアントを待っているだけがカウンセラーの働き方ではなく、自ら現場に出て行く、あるいは会社に常駐するというスタイル。
それが確立されれば、カウンセリングの力を必要としている人や場所と、カウンセラーはウィンウィンの関係が築けるように思えますし、「カウンセラーとして食べていける」と希望を抱く人も増えることでしょう。
また、小西さんのように会社員からのセカンドキャリアとして「カウンセラー」という選択をする人もきっと出てくるはずです。
平均寿命が長い国でありながら日本では自殺者の数も多いと聞きますし、また過労死という言葉を世界に広めたのも日本なのだと、以前どこかで聞いたことがあります。
体の健康に対する技術や環境を整える一方で、メンタルへの配慮については、どこかに置き忘れてきてしまったかのようです。
あるいは、我慢強さをメンタルの強さと勘違いしてきたのもしれません。
自殺者ゼロを目標に掲げている小西さん。彼の言う「残業をやり過ぎて自分の命を削ってお金に変えるんじゃなくて、楽しく仕事をしてもらいたい」という言葉は、とても大切なメッセージだと思います。
今、日本ではメンタルヘルスやクオリティオブライフのように、生活に精神的な幸福度を求める風潮が強くなっていると感じます。
それがただの一過性のブームにならないように、カウンセラーも、セラピストも、それぞれがそれぞれのポジションとスタイルで力を発揮して欲しい。
そんなことを考えたインタビューでした。
ヒューマンカウンセラーズ