埼玉県富士見市みずほ台でプライベートサロン「Mapiciel(マピシエ)」を運営している、谷口幸美さんのセラピストライフを紹介します。
谷口さんは美容業歴20年のキャリアを持ち、オールハンドでの施術を得意とするエステティシャン。
マッサージの世界大会である「インターナショナルエステティック&スパ2023」のインターナショナル部門で2位の成績を収めています。
彼女のサロン「Mapiciel」では、痩身や脱毛コース、アロマリンパオイルトリートメントなどが用意されていますが、中でも看板メニューである「4D顔上げ矯正」が一番人気なのだそう。
この「4D顔上げ矯正」は、背中、首、肩、デコルテ、頭、そして顔と、立体的に施術をすることによって、効果的な小顔&リフトアップを狙う、谷口さんのオリジナルメソッドです。
立体的(3D)に施術をすることに加え、施術後にリフトアップを体感できるということから、「4D顔上げ」と名付けとのこと。
これは、映画館で立体映像による3Dに加えて、風やミストなどの体感演出を加えた上映システムを「4Dシアター」などと呼ぶのと同じであるようです。
お客様は日々を忙しく過ごす40代の女性が多く、最初はエステを目的として谷口さんのもとを訪れますが、このサロンでは全身のリラクゼーションメニューやボディケアメニューも用意されていることから、やがて定期的なメンテナンスを目的としたリピーターになっていくようです。
「コミュニケーションは大切にしています。カウンセリングで聞く内容だけでなく、来店された時のお顔や靴を脱ぐときの仕草、歩き方、腰掛けた時の姿勢などから、お客様の状態を見るようにしています。少ない時間でどれだけの情報をキャッチできるかですね。施術中にも『今、喋りたいのかな。寝たいのかな』と、絶えずお客様のご様子をみるようにしています」(谷口さん談)
谷口さんは施術をすることはもちろんのこと、施術を受けるのも好きなのだそうで、優れた技術やサロンの雰囲気など、良いものを吸収し続けているといいます。
今では世界大会で好成績を収めるエステティシャンである谷口さんですが、エステ業界に入る以前はなんとパティシエだったそうです。
今回のインタビューでは、彼女のこれまでの歩みと、世界大会に参加したことへの感想を伺いました。
綺麗になっていく姿を見ることが好き
子どもの頃の谷口さんは、じっとしていられない、思い立ったらすぐに行動する。料理やお菓子作りが好きで、綺麗なものやかわいいものが好き。
そんな子供だったと話してくれました。
そんな女の子ですから、パティシエを目指すというのもごく自然なことだったのでしょう。
成長した谷口さんは専門学校を卒業し、見事に洋菓子職人として洋菓子店に就職しました。
ただ、夢見た仕事の現実は、とても厳しいものだったとのこと。
「20年以上前のことですけど」と断った後、谷口さんはこんな話をしてくれました。
「今は結婚式会場のホテルがウエディングケーキを作ることが増えていますよね。でも、以前はそれを洋菓子店がやっていて、私が勤めていたお店ではピークの週末に向けて1店舗で100台くらい作ったりしていたんですよ。もう始発終電が当たり前で。ホテルにケーキを運んだりもしていたので、責任重大でピリピリしてましたね」(谷口さん談)
そんなハードの日々の中で、谷口さんはマッサージやエステを受けることで心と体を支えていたそうです。ですが、彼女はパティシエとしての道を3年で離れてしまいます。
谷口さんが次に選んだのが、大手エステサロンのフロントスタッフでした。
綺麗なものやかわいいものが好きなこともあり、またずっとエステサロンに通ったことからの憧れもあったようですが、とにかく1度、技術職から離れたいという思いから事務職を選んだそうです。
大手サロンですから、大勢のお客様が来て、その方たちをトップエステティシャンがお迎えし、そして見事に売上を上げていく現場です。
エステティシャンたちの接客術や営業トークを間近で見聞きし、契約書類の作成に携わっている内に、谷口さん自身も自然とトップエステティシャンたちの営業スキルを身に付けていったとのこと。
施術はできなくとも、お客様とお話ししてコースや粧材をお勧めすること、そして綺麗になっていくお客様を見ることが、谷口さんの楽しみになっていったといいます。
いつしかトップの営業成績を取るようになり、なんと入店して1年が経った頃には店長に抜擢されるまでになります。
「店長になった時点では、私、施術ができなかったんですよ。それで、やるしかないって感じで技術を身に付けることになったんです。その時は店長としてマネージメントがメインでしたけど、施術を覚えるとすごく楽しくて。施術することも楽しいんですけど、お客様が目の前で変わっていって、喜んでいただけるのが嬉しかったですね」(谷口さん談)
谷口さんの意識が独立開業へと向くきっかけは、彼女自身が第一子を出産したことでした。
産後に職場復帰した谷口さんでしたが、子育てをしながらでは以前のように第一線で働くことはできなかったそうです。役職も退いていて、時短で働くことにもなりました。
そして、自分が子育てをする立場になった時、「同じ立場の女性にとって、エステサロンは敷居が高いのではないか」と、視点がガラリと変わったのだそうです。
子供ができれば、独身でバリバリ働いていた時とは、日常生活がまったく違ってきます。
子育てに掛けるお金も必要になりますし、予定したとおりにすべてが進むわけではなくなります。
心身のメンテナンスに必要な施術内容も当然ながら変わってきます。
しかし、お母さんになっても、美しくなることで得られる喜びが失われるわけではありませんし、やはり癒やしや休養は必要です。
「誰でも気軽に通えるサロンがあったらいいな」
その思いが少しずつ強くなり、谷口さんは長年勤めた大手エステサロンを退社。その後、地元にあったボディケアサロンに入って、エステの技術を提供しながら、新しい技術を身に付けていきました。
これまでもこれからも。お客さまの要望に全力で応えていく
その2年後、そのボデイケアサロンが閉店することになり、谷口さんは独立開業を決意します。
彼女のプライベートサロンMapiciel(マピシエ)がオープンしたのは2019年9月。
「空高く舞い上がるような心地よさを感じて欲しい」という思いを込めて、pic(頂上)とcurl(空)を掛け合わせた名前をサロンに付けたのだそうです。
ボディケアサロンのお客様を引き受けつつ、これからサロンを軌道に乗せていこうと考えていた矢先に、谷口さんのサロンのみならず、すべてのサロン経営の先行きが見通せなくなります。
新型コロナのパンデミックが起きたのです。
「苦しい時期でしたが、諦めなかったのはどうしてですか?」と私が訊くと、少し考えてから「辞めたところで、きっとまた同じような仕事をするんだろうな、と思ったんです」と谷口さんは笑顔で答えてくれました。
谷口さんはアルバイトをしながら、SNSでセルフケアの情報などを発信して、お客様と繋がり続けるようにしていたとのこと。
この情報発信は今でも続いていて、谷口さんはパティシエ経験を活かして、ファスティングについてや、グルテンフリー、ギルトフリーのお菓子のレシピを紹介することもしているそうです。
また、粧材を谷口さん自身で試し、その経過をSNSで発信しているとのことで、そうしたスタイルがお客様から信頼を寄せていただける要因になっているようです。
そうやって、地道にお客様と繋がり続け、サロンを維持しているうちに、だんだんと新型コロナの影響が薄まっていき、徐々にお客様が戻ってきてくれたということでした。
さて、冒頭でご紹介したように、谷口さんはマッサージの世界大会「インターナショナルエステティック&スパ2023」のインターナショナル部門で2位の成績を収めています。
この大会に挑んだ際のお話を伺いました。
「世界大会があることを知ったのは、3年ぐらい前ですね。その時は、そういうのがあるんだなというくらいでした。それで、今年(2023年)も大会があることを年明けくらいに知って調べてみたんですよ。情報を集め始めると、他のセラピストさんとかエステティシャンさんがエントリーしているみたいなことも入ってくるんですよね。私もずっと気になってしまって、それで『ああ、私は挑戦してみたいんだ』って気が付いたんです。なら、やらないで後悔するよりもいいかなって。」(谷口さん談)
この大会で日本人が参加できるのはインターナショナル部門で、谷口さんの施術の分類としては「神経筋」になるそうです。
大会はフランス、パリで4月に行われたのですが、谷口さんは2月にエントリーして、大会に向けて自分の施術を見直したといいます。
「審査は、いわゆる『受け感』ではなくて見た目の審査になるので、動画はかなり撮りました。自分の姿勢とか、気持ちよさそうに見えるかどうかって。実際に人に受けてももらいましたね。そうしたら『前より良くなった』と言ってもらえたので、姿勢が良さが受け感に影響するっていうのが、よく分かりました」(谷口さん談)
そして谷口さんはフランスに渡り、大会に臨みます。
同じ部門には80人ほどが参加していて、日本人も多かったそうです。
そして、結果は2位。
「2位で名前を呼ばれた瞬間に『ああー、2位かー』って思いました。1位を取るつもりで行っていたんで」と谷口さんは振り返ります。
もちろん、2位は立派な成績です。
ですが、やるなら優勝するつもりで全力を尽くすという姿勢が、「2位かー」という言葉に滲み出ていました。
「受賞して何か変わった事はありましたか」と訊くと、「サロンでの活動については何も変わっていません」と谷口さんは笑って答えてくれました。
それはきっと、これまでもずっと目の前のお客様のご要望に全力で応えてきたという自負があって、それ自体は何も変わらないということなのでしょう。
「私自身は、今のままサロンに立ち続けたいと思っています。ただ、せっかくだからスクールもやっていきたいとも思っています。もちろん、私が教えたとしても、当然まったく同じにはならないんですよね。だったら、知りたいことはお教えするので、自分流に アレンジして好きに使ってくださいっていうスタンスで『結果の出せるエステティシャン』を増やしていければと考えています」(谷口さん談)
「世界大会2位」の肩書は、サロンの集客にも、またスクールの生徒募集にも目を惹く看板になるはずです。
ですが、その称号を得たものは、それがただの「看板」ではないことを証明し続けなければならない立場になります。
しかし、2位という結果は、「上には上がいる」という現実を示しているとも言えます。
きっと谷口さんご自身も「もっと上のレベルを」と歩み続けるのでしょう。
そして、その精神は、これから彼女のもとに学びに集まる未来のエステティシャンたちにも伝わっていくはず。
私はそんなことを考えていました。
校長からのメッセージ
今回は、パティシエから転身し、今や世界2位の実力を備えるまでになったエステティシャン、谷口幸美さんにインタビューしました。
パティシエとエステティシャンではまったく違う仕事のように見えて、実は求められる資質としてはよく似ているのかもしれません。
美しさやかわいらしさを追い求めるセンス。扱う食材(粧材)の成分や機器への理解。そしてなによりも、完璧を目指す職人気質。これらは共通して求められる資質であるように思えます。
そうした資質ゆえに、谷口さんはパティシエという技術職から離れて事務職に就いたのに、エステティシャンという技術職の道に進むようになった、ともいえるのではないでしょうか。
ただ、谷口さんには技術職者では時に言われるような「頑固さ」とか、「コミュニケーションが苦手」というような雰囲気は見られず、むしろ「柔軟性」や「理解力」のほうが印象的でした。
たとえば、「フロントスタッフをしていて、売上がトップになった」というお話、お店から教育は受けていたとしてもトップエステティシャンたち以上に数字をあげられたのは柔軟性や理解力があったゆえだと思います。
彼女のようなセンスを持ったエステティシャンが、今後どのようなスタイルで後進を育てていくのか、とても楽しみになりました。
さて、今回のインタビューで繰り返し耳にしたのが「結果を出す」という言葉でした。
エステシャンとしての「結果」とはなんでしょう? ○Kg減だとか、○cm減といった数字も、確かに結果です。
ですが、エステでもセラピーでも「結果が出る」というワードに頼りすぎているのではないか、という印象を私は持っています。
というのも、数字的な「結果」は比較可能なものです。
数字だけでエステティシャンやセラピストの腕を表現してしまうのは、お客様に「他所と比べてください」と言っているようなもの。それではリピーターにはなってもらえません。
谷口さんに「結果とは?」と訊いたところ、少し考えてから、
「これからどうなっていくか、その人の未来を見せられるということでしょうか」
と答えてくれました。
「見た目の変化という結果は、当たり前じゃないですか。それに加えて、満足感だったり、サロンに来て良かったと思ってもらえることとかも含めて『結果』だと思います。もっと言えば、サロンに来た日のことだけじゃなくて、『これからもっと綺麗になっていくよ』という未来が見えるものが『結果』なんじゃないかと思うんです」(谷口さん談)
「結果」とは一義的には、その日の施術によって得られる「変化」であり、過去の出来事です。
その変化を示しながら、「今日の結果の延長上に、より良い未来がある」ということを実感してもらうことが、実はリピーターに支持されるエステティシャン特有の能力なのかもしれません。
それはセラピストであっても同じです。
そのエステティシャン、あるいはセラピストと一緒に歩めば、その先で「綺麗な自分」だったり、「元気な自分」だったり、「笑顔の自分」になれる。それを期待させることこそが、お客様に「また来ますね!」と言わせるとても大切な要素だと思います。
逆に、いくら数値的に結果を出しても、雰囲気が悪るかったり、コミュニケーションが不足して、「一緒に歩きたくないな」と思われてしまえばリピートは望めないともいえます。
お客様に施術後の変化を感じてもらって、「この先の未来を一緒に見に行きませんか?」とお誘いするためのものが「結果」である。
そういう考え方もあるのだと気づかされたインタビューでした。
https://www.instagram.com/mapiciel.yukimi
ホームページ
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