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内藤徹さんのセラピストライフ〜自宅サロンセラピスト

2024/09/06
内藤徹さんのセラピストライフ〜自宅サロンセラピスト

 2018年にエルサレムでセラピストライフをスタートさせ、2020年より杉並区阿佐ヶ谷にある古民家風一軒家の自宅サロン「あさごや」を運営している、内藤徹さんのセラピストライフを紹介します。


 内藤さんのサロン「あさごや」は、閑静な住宅街の中にあります。


 自宅兼サロンの一軒家は、築13年ほどでありながら、木の温もりが感じられる懐かしい雰囲気があります。というのも、有名な建築家に設計を依頼し、戸やガラスなどに古い建具を再利用して作られているからです。


 隣には幼稚園があり、サロンの窓からは桜や紅葉が見えるという、こだわりの空間が作られていて、その素晴らしさは建物探訪のテレビ番組でも取材されたこともあるほどです。


 そんな落ち着いた空間で提供されるのは、エサレンボディワークを主体とした「オイルタッチセラピー」。


 柔らかなタッチで全身を包み込むようなロングストロークを基調にしならがらも、気になる所に手をとどめたり、ストレッチなども入れたりと、お客様の心身の状況に合わせた施術を行っています。


「クライアントを観察して気づくことはエサレンマッサージの大事な考え方でもありますが、僕は相手の呼吸をすごく意識しています。相手の状態を知るには、それが一番の手掛かりかなと思います。事前のカウンセリングも手掛かりにしますが、施術中にお客様の体に触れ、呼吸に合わせているうちに、直感的に『こうした方が楽になるかな』と気付くことがあります。そうやって相手に合わせていくので、自然と施術内容は変わっていきますね。この直感とは何なのかをいつも探求しています」(内藤さん談)


 また、施術の前後にゆったり静かに過ごす時間をとるなど、お客様自身が体と心を感じられる時間を過ごしていただけるようにしていて、全身が緩むだけでなく「穏やかな気持ちになる」とお客様に喜ばれているとのこと。


 冒頭で紹介した素敵なサロン空間もさることながら、内藤さんの落ち着いた口調や、相手を尊重する態度が、男女問わずお客様を安心させるのかもしれません。


 贅沢な時間の使い方をするため、サロンにお迎えできるお客様は1日2名までとしています。


 お客様の年齢層は40、50代が多く、最近は30代の方も増えているそう。9割が女性ですが、「男性の大きな手で温かくて気持ちよかったです」というお声をいただけることも多いとのことでした。


「最近は、体がきついというよりも、体も心も疲れているという相談が増えています。社会的にそれが求められていることもありますし、僕もそうした方に施術をできればと思い、あえて『心がゆったりする』『気持ちが楽になる』というメッセージを発信するようにしてきました。施術を終えた後に、心がオープンになり、ご自身の話をしだす方もいて、ゆっくり話を聞くこともあります。僕が提供したいことと、それを必要としている方のチューニングが少しずつ合ってきてるんだな、という感じはしています」(内藤さん談)


 実は、内藤さんはJICAの職員として国際協力に20年以上にわたって携わってきた経歴を持っています。


 そんな彼が、なぜ50代でセラピストライフを歩み始めたのか。そして、彼が今後何を見据えているのか。インタビューの中で伺いました。



自身が子ども時代に戻ったような感覚に

 内藤さんは、東京立川生まれで、幼少期は北海道や名古屋にも住んでいました。子どもの頃のことを聞くと、本人いわく「運動も勉強もそこそこにやってましたけど、優しい男の子だったと母から聞いてます」。


 小学生の頃には野球に熱中しながらも、あやとりや折り紙のような遊びにも興味があったそうです。


 内藤さんが社会人になった頃は、バブルの絶頂期といわれる時代。彼は大学で社会学を勉強したことから住宅や都市計画に興味を持ち、大手住宅メーカーに就職します。


 そこで2年ほど海外留学に行ったことで、視野が広がったと振り返ります。


 しかし、海外留学から戻るとバブルが弾け、内藤さんを待っていたのは負債を処理する業務の日々。


 ネガティブな仕事に心身をすり減らす中で、週末は安らぎを求めてオイルマッサージやアロママッサージなどのサロンに通うようになったそうです。


 30歳を迎える頃、内藤さんは新しいステージへと進みます。


 JICA(独立行政法人国際協力機構)に転職したのです。その後、彼は途上国でのインフラ整備に携わったり、協力国の駐在員として派遣されるなど、22年間にも渡りJICAで働くことになります。



 その間に、日本と現地政府とのやり取りの仲介、人的交流の世話役、研修、安全管理、広報など、様々な仕事に従事したそうです。


「海外から帰ってくるたびに逆カルチャーショックでね」と笑いながら話す内藤さん。日本の忙しない生活リズムや仕事上の人間関係に窮屈さを感じるようになり、癒しを求めてサロン通いが増えていきました。


 いくつものサロンに通う中で、あるセラピストからワークショップのお誘いを受けて、そこで内藤さんは初めて「受ける側」から「する側」を体験することになります。


「誘ってくれたセラピストに、『マッサージを学んでどうするの?』って聞いたら、『やってみて楽しければ続けて来ればいいよ』と言われて。それで学び始めるんですが、その頃には『もしかすると、将来これを仕事にするかも』という思いが心のどこかにあったのかもしれません」(内藤さん談)


 その後、仕事を続けながらスウェディッシュマッサージの学校に通った後、あるオーナーセラピストに師事してマンツーマンで技術を習得したそうです。


 内藤さんとエサレンマッサージとの出会いもこの頃でした。夕方、日差しが優しく差し込む郊外のサロンの部屋で、近くの公園で遊ぶ子どもたちの声を聞きながら施術を受けたそうです。


「ロングストークでゆったりと包まれるようなマッサージを受けているうちに瞑想状態になって、なんだか自身が子ども時代に戻ったような感覚になったんです。友達と野球をやっているうちに日が傾いて、帰らないといけないのに飽きずにボールを追い掛けている時みたいな。すごく幸せな時間を思い出して、とても良い気分でした」(内藤さん談)


 この経験から内藤さんは、心の変化にこそセラピーの本質があるのではないかと考えるようになったようです。


 JICAの長期休暇を利用して、アメリカ・カリフォルニアにあるエサレン研究所へ行き、短期プログラムに参加するなど、彼の学びの意欲は高まっていきました。


「エサレンの技術はもちろん、哲学的な考え方にも共鳴するところがありました。僕はもともとヒッピー文化みたいなカウンターカルチャーに関心がありました。それは自由や自分を大切にするとか、ラブ&ピースの世界ですよね。エサレンもみんなお互いにハグして、自分を愛して、相手を愛して、平和に暮らそうみたいなところに根幹があるんじゃないかと。そういう世界観に対しての憧れがあり、それをベースに持つ技術にも惚れているんですよね」(内藤さん談)



セラピストライフのはじまりは“touch therapy at Jerusalem”

 内藤さんが本格的に「受ける側」から「する側」になった転機は、2018年に訪れました。


 同じくJICAに勤める内藤さんの奥様に、エルサレムへの転勤の辞令が来たのです。


 当時中学生と小学生のお子さんがいたことから、子どもたちの人生経験のためにも家族で渡航したいと考えたそうです。そのために休職するという選択肢もあったのですが、内藤さんは自分がJICAを退職するという決断をします。


「22年間勤めてJICAの仕事に対してやり切った思いがあり、それ以上続けることにワクワクしなかったんですね。ズルズルと続けるよりも、いっそ辞めちゃった方がすっきりするかな、と。それに、子どもが成人して結婚する頃には僕は70くらいだから、元気でいるには定年がなく長く続けられる仕事をしたほうがいいだろうという思いもありました。あと、自分の周りに個人で仕事をする人たちも結構いて、彼らへの憧れと羨ましさもあったかな」(内藤さん)


「まるでポトッと実が落ちるような、気負い未練も無く辞めたって感じですかね」と内藤さんは振り返ります。


 こうして、内藤さんはエルサレムへ渡り、そこで主夫として家族を支えることになったのです。(そこでの日々は、電子書籍『仕事を辞めてエルサレムで主夫してきた』に綴られています。)


 内藤さんはこれまで50か国以上に渡航し、海外も含め500回以上マッサージを受けてきていて、彼いわく「マッサージ客のプロ」。


 しかし、エルサレムにもイスラエルにも気軽にマッサージを受ける場所はなく、施術を受けるには高級ホテルに行かないとならない状況でした。


 日本人を含めて海外から赴任している人たちと交流する中で、セラピーの必要性を感じた内藤さんは、現地でマッサージベッドを買い、自宅の一室をサロンスペースにして、まずは在住の日本人に声を掛けたそうです。



 施術はスウェディッシュをベースに、彼がそれまで受けて来たサロンワークを組み合わせものでした。


 すると、現地にいる日本人や国連関係者、メディア関係者などの人々が、彼のサロンを訪ねてくるようになります。


 いつしかそこは“touch therapy at Jerusalem (タッチセラピー アット エルサレム)”と呼ばれるようになったのです。


 内藤さんは当時52歳。これが彼のセラピストライフの始まりです。


「現地で施術をしてみて気づいたのは、呼吸の浅さでした。あの場所ならではの緊張感からか、みな体が硬くなり、呼吸が浅くなっているようでした。そこで背中や腰を緩めてあげると、呼吸が楽になっていくのが分かりました。施術後には『こんな穏やかな顔してたんだ』って驚くくらいに顔つきも変わります。みんな緊張していて、それが呼吸にも、顔にも表れているんだなと思いました」(内藤さん談)


 イスラエルとパレスチナの戦争が行われている今ほどでなくても、エルサレムというのは常に特別な緊張感のある場所です。


 大きなトラブルが日常的にあるわけではないにせよ、歴史的、宗教的に複雑な場所であり、国連関係者もメディアも腫れ物に触るように気を遣わなければなりません。


 そんな場所だからこそ、相手に優しく触れるという行為が特別な価値を持つのかもしれません。

触れることに飢えていた自分に気づく

 ただ、こうした始まった内藤さんのセラピストライフも、突然、変化を余儀なくされます。


 新型コロナウイルスによるパンデミックです。


 2020年3月にJICA関係者の一斉帰国が始まり、内藤さんはJICA職員である奥様を現地に残して、子どもたちとともに日本に戻ることになります。


 当初は「一時的な緊急帰国」という想定でしたが、結局半年が経ってもエルサレムには戻れず、内藤さんはそのまま日本で生活を続けることになりました。(奥様はその後1年半ほど後に帰国したとのこと。)


 帰国した当初、内藤さんはエルサレムでしていたのと同様に、日本でもサロンを持つことを考えましたが、4月に東京に緊急事態宣言が出されると「今は時期ではないのかもしれない」と意気を落としたそうです。


 しかし、緊急事態宣言から2ヶ月ほど経った頃、ヘアカットにいった際にヘッドマッサージをしてもらい、その気持ち良さから「触れられることに飢えていた」自分に気が付きます。


 さらに、セラピスト仲間とオンラインで交流する中で、セラピーの素晴らしさを再確認することになります。


 そして、2020の7月18日、内藤さんのサロン「あさごや」は開業を迎えます。



「自宅はサロンとして準備したわけではないけれども、子どもたちの遊び場だったところに寝室を移して、もとの寝室をマッサージ部屋にして、その時は妻はまだエルサレムから帰ってきていなかったので、妻の部屋に荷物を押し込んでね。ちょっとレイアウトを変えてればできるじゃないか、やっちゃおうって始めたんです」(内藤さん談)


 コロナが続く中だったということあり、最初はFacebookで繋がっている友人知人にサロン開業を告知するところから始めたそうです。


 そして、新型コロナ禍が明けた2023の2月に、内藤さんはインドネシアバリ島にて本格的にエサレンマッサージを学び、資格を取得。


 その後の半年ぐらいかけてモニターセッションをして、サロンをアップグレード。さらにSNSや予約サイトの活用などを進めるなど、少しずつ着実にギアを上げているという印象です。


「これからどのようにしていきたいですか?」という私の問いに、「あまり整理できていないのですが」と前置きしながらも4つものビジョンを話してくれました。


 1つ目は、「とにかく今はいっぱい触れたい」のだそう。

「もっと人に触れながら、いろんなことを試してみたいですね。お客様とのキャッチボールみたいなことをしたい、というのか。いろんなお客さんに会って、身体的な意味だけでなくて『触れる』ことを続けていけば、自分のしていることの価値だとか、触れる事の意味がより深く分かってくるはずだし、僕自身もお客様も何かが変わっていくかもしれない。そのプロセスを味わいたい、というのがまず1つです」(内藤さん談)


 2つ目は、「体に触れること以外の手法を探求」。

「もしかしたら体に触れること以外に、コミュニケーションだったり、心理的なワークだったり、相手の心に関して自分なりにできることがあるんじゃなかと。僕はいろんな世界を見てきているので、それも活かしながら、何かお伝えできることがあったらいいなと考えています。ただ、それは意図的な手法ではなくて、自然にお話しをするなかで気づいていくようなものだとは思うんですけどね」(内藤さん談)


 3つ目は、「アジアなどの海外との繋がりを活かした交流事業」。

「バリには世界各地からエサレンの資格認定コースを受けに来るんですが、中国やタイの生徒さんの活気がすごくて面白いんです。日本のセラピストさんとの交流など、アジアとの繋がりを活かして、僕ができることはないかな、と考えています」(内藤さん談)


 4つ目は、「エサレンの国内での普及」。

「マッサージだけじゃなくて、哲学や考え方として、エサレンがもっと広がればと昔から思っていて、何か出来ることがあればやりたいと思っています。Facebookでエサレンに関心のある人のコミュニティ作ったりもしていますよ」(内藤さん談)


 この記事では伝わらないのですが、静かな落ち着いたトーンでありながら、強い探究心や情熱が内藤さんの声から伝わってきました。


 この記事を読んでる方の中には、もしかすると「50代からセラピストを始めた」と聞いて、人生の後半を穏やかに過ごそうとされているかのように思った方もいるかもしれません。


 しかし、インタビューを終える頃には、内藤さんのことを「社会経験豊富な大型新人」と評したほうが相応しいのかも、などと考えている私がいました。



校長からのメッセージ

 本編では、自宅サロンセラピストとしての内藤さんについてご紹介しました。ここではサロンの外での彼の活動について、簡単にご紹介させていただきます。


 それは、大学の講師としての活動です。


 内藤さんは、ある大学で「世の中の課題解決」をテーマにした講座を持っていて、生徒はおのおのでプロジェクトを立ち上げて、企画・実践することを学ぶのだそうです。


 聞いてみると大学での内藤さんの仕事は、講義というよりもカウンセリングやコーチングに近いもののようです。


「いきなりテーマを探して、実践せよって言ったって、生徒は困ってしまう。だから、僕は生徒一人ひとりと会話する中で、その生徒の興味を掘り出していくんです。バイトは何をしているの? サークルは? どうしてそこを選んだの? と。テーマが決まったら、こう考えてみたら? とか、ここへ行ってみたら? とか。生徒の関心や興味をアカデミックな活動に繋げるための相談役って感じですね」(内藤さん談)


 この仕事は、エルサレムにいる時にすでに誘われていたのだそう。


 もともと国際協力を仕事にしていて、日本国内や海外、途上国の課題解決に関わってたことから声がかかったとのこと。


 この大学の仕事が週3ほどのボリュームで、空いている時間にサロンを運営しているため、内藤さんはダブルワークセラピストでもあるわけです。


「振り返ってみれば、JICA時代の仕事はスケールは大きかったけれども、僕はその中の一部、裏方であって、仕事の結果が出て現場で喜ぶ人々に直接的に関われたわけではないんです。セラピストの仕事は、直接、手で肌に触れるというだけじゃなくて、人と人が会うところがいいですね。学生相手の仕事もそうです。一人ずつ面談するところに圧倒的なリアルがあって、直に喜びや成長に立ち会える。今はそれが楽しくてね」(内藤さん談)


 内藤さんにとってセラピーも学生へのアドバイスも地続きで、国際的で多様な視点が、狭くなりがちなクライアントや生徒の視野を広げてくれるのでしょう。



 また、彼の穏やかな声は、国も思想も背景も違った様々な人々と交流するなかで、相手を尊重して受け入れてきた経験によって培われたものなのかもしれません。


 それが、サロンのお客様にとっても、学生にとっても心地良く、自分の心の内をついこぼしてしまう。そんな素晴らしいツールのように思えます。


 私が内藤さんに「セラピストとして大事にしていること」を訊いたときに、しばらく言葉を探した後で、こんな答えを返してくれました。


「相手を尊重するっていうことが最初に頭に浮かびました。相手の本当のことは分からないっていうのが根本にあって、到底分からない中で何ができるのかな、と考えるような感じです。自分としては良いと思うことをするけれども、それをどう受け止めるかは相手次第だし、もしかしたら予想とは違う反応があるかもしれない。思ってもみない結果になるかもしれない。分かり得ないからこそ、キャッチボールしながら分かろうとする感じなんですかね。これはセラピストとしてというより、人として大切にしていることですね。セラピストは仕事であり商売でもあるけど、基本的には人として誠実にありたいですね」(内藤さん談)


 彼の中には、暗くなるまで友達とワクワクしながらキャッチボールをする少年が今もいるのかもしれません。


 胸に届くボールを投げたり、変化球を受けてニヤニヤしたり。ときには投げ損じて「ごめーん!」なんて言って笑い合うみたいな。


 遊ぶ子どもたちの声を聞きながら、穏やかなひだまりの部屋でゆったりとした施術を受けた時に脳裏に浮かんだ、あの原風景が内藤さんの今の活動に情熱を与えているのもしれない。


 そして、誰にもそうした原風景があるのかもしれない。そんなことを考えながら、インタビューを終えました。


オイルタッチセラピー@あさごや

https://www.asagoya.net/