東京都国立市にて、5年にわたって自宅サロン「curatrice(クラトリーチェ)」を営み、トリートメントを提供するともに、スクールも運営している波亜希子さんのセラピストライフを紹介します。
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大学や高等学校などの教育施設が多い文教地区である国立市。
その閑静な住宅街に波さんのサロン「curatrice」はあります。
このサロンで提供されるのは、アロマトリートメント、ロッキング メディテーション、ソマティック タイ メディテーションを組み合わせた、オーダーメイドのトリートメントセッションです。
ロッキング メディテーションとは、優しい圧でリズムよく揺らす施術で、揺りかごに揺られるような感覚で、深いリラックスを感じられるそうです。
また、ソマティック タイ メディテーションは、タイヨガボディワークをベースにしていて、呼吸に合わせてゆっくりと関節を動かすことで、体の緊張を解いていく施術とのことです。
こうしたオーダーメイドの施術に加え、波さんのサロンワークの特徴の1つは、トリートメント前に60分ほどの時間を取ってしっかりと行われる、アロマカウンセリングにあります。
最初に、誘導瞑想を応用してお客様の気持ちを落ち着かせた後、お客様が話したいことを何でも話せる、そんな時間をしっかりと取るそうです。
その後、精油の香りからくる、好きなものや嫌いなもの、気になるものなど、直感的に感じたことを自由に話してもらうようにしていると言います。
ここで選ばれた精油が持つ性質と、お客様との会話内容を考え合わせて、トリートメントに反映していくのです。
「普段、多くの人が、“自分はこういう人”だとか、“あの人はこういう人”とか、いろんな先入観などをくっつけて生きています。このサロンは、そういうものを全部取っ払って、今感じていることとか、他では話せない違和感など、自由に発言できる場所であることをお伝えしています。精油の香りについても、思考によるジャッジなしで、その時の感覚で好きに選んでいただいています。とにかく、まるっと全部受け入れますよ、というスタンスでお客様をお迎えしています」(波さん談)
ときには、選ばれた精油から伝わるメッセージと、お客様との会話内容との間にズレが感じられることもあるのだそう。
そんな時は、そのズレについてお客様と対話することで、新しい気づきが生まれるきっかけになるとのこと。
そうした、お客様の思考の枠を取り外すようなカウンセリングの段階からセラピーは始まっていて、続くトリートメントによって硬くなった体を解すことで、心身の柔らかさを取り戻してもらうことを、波さんは目指しています。
波さんにこれまでの経緯を聞くと、「私、ガチガチの真面目人間だったんですよ」と笑顔で答えて、セラピストとして活動するまでのことを語ってくれました。
逃げるようにイギリスに留学して出会ったセラピー。でも、
波さんが大学を卒業後に選んだ就職先は、大手旅行代理店でした。
大学で英語を専攻していたこともあり、海外旅行専門の支店に配属されたそうです。
念願の就職先とあって、真面目な性格の波さんは設定された目標に向かって、がむしゃらに働き続けたそうです。
そして、支店の売上げが3年連続で1位を達成した頃、波さんは心身に異変を感じるようになります。
「絶対に成績を落とせないという重圧を感じていました。人と比べるようになったし、成績を落とすことが恐くなって、ガチガチになっていましたね。優等生でいたいっていう意識が強かったんですよね」(波さん談)
その働き方に限界を感じ、「逃げるようにイギリスに海外留学しました」と、波さんは当時を振り返ってくれました。
その留学期間中、以前にホテルスパを受けた時のことを思い出し、波さんは現地のマッサージ専門学校の門を叩きます。
以前、彼女がスパを受けたのは、旅行客に紹介するための体験でしたが、心静かに癒やされる時間を過ごすことができたそうです。
自分も癒やしを提供する側になれたら、という気持ちが心に湧き、波さんは何の紹介もなく専門学校に飛び込みます。
実はその専門学校。高級ホテルやクルーズ船で働く人のための学校で、スウェディッシュボディマッサージやアロマテラピーだけでなく、マナーについても厳しく指導を受けたそうです。
夢中でセラピースキルを学んだ波さんは、そのスクールの実習で、料金を受け取りながらお客様に施術をするようになりました。
しかし、そこでも波さんの「ガチガチの真面目さ」が裏目に出てしまいます。
1日6人ものお客様に施術をする生活を何日もする内に、体調を崩して入院。ついには帰国を余儀なくされたのです。
この経験から、波さんは「私はこれを仕事にはできない」と、セラピストとして生きることを諦め、帰国後に航空会社に就職しました。
その後、結婚を機に離職しましたが、今度は妊娠期間中に原因不明の不調に苦しむことになります。
幸い、無事に出産し、波さんは健康を取り戻しますが、西洋医学ではフォローしきれない状況があることを身をもって体験したのでした。
「私と同じような辛い経験をしている人に対して、お医者さんとは違うアプローチで、話をじっくり聞いてもらえたり、体に優しく触れてもらえたりする場所があると、すごくいいなって思いました。それで、もう一度、私自身がセラピストとして活動するならばと考えた時に、自分を整える方法を知っておきたいと考えました」(波さん談)
こうして波さんは、自分を整える方法とともに、セラピースキルの学び直しができるスクールを探し、師と仰ぐ人物に出会うことになります。
そして、その方のもとで1からの学び直す中で、香りを通して本当の自分と向き合うとともに、アーユルヴェーダなどの東洋医学の考え方にも触れていきました。
その後、このスクールで新しく学んだものに、彼女自身がこれまで身に付けてきたものを組み込んで、自宅サロン「curatrice」をオープン。現在に至ります。
心と体、どちらからのアプローチも大切にしたい
これまで5年間、自宅サロンを経営する中で感じたことを聞くと、お客様の満足度におけるカウンセリングの価値について、考え方が大きく変わったという話をしてくれました。
「最初は、サロンはトリートメントを提供する場所だと思っていました。だけど、施術前のカウンセリングで1時間近くもお話してくださるお客様がいて、中には“もうこれで整ったよ”と言っていただける方までいました。それで、ああ、私の価値はお話を伺うことにもあったんだ、と気づいたんです。それからは、カウンセリングの価値を明確にして、時間をあらかじめ長く取るようにシフトチェンジしていきました」(波さん談)
心の硬さと体の硬さは強く関連していて、一方の変化はもう一方にフィードバックされている。
サロンを経営する中でお客様の内側で起きる、そうした現象を目の当たりにしたことで、心と体、どちらからのアプローチも大事であることに気がつき、波さんは心理学や四柱推命などの勉強を続けているそうです。
「やっぱり人に対しての興味が強いのかな、と思います。人を知るためのツールの一つのとして香りがあるように、四柱推命のような他の方法も身に付けることで、いろいろな視点で見られて、説得力も増すんじゃないかなと思います」(波さん談)
カウンセリングに磨きを掛けることで、直接体に触れられなくても、人の力になれる幅が広がるのではないかと、波さんは言います。
また、そうしたスキルを使って、オンラインでのサービスにも対応してきたいそうです。
これまでお客様と接する中で「こんなに人って変われるんだ」と驚いていると、波さんは言います。
そんな彼女自身もセラピストとしての自信を、日々深めているのでしょう。
おそらく、旅行代理店時代の波さんからすれば、現在の彼女の姿は思いも寄らないほどの変化なのではないでしょうか。
きっと、この先も変化を重ねて、ますます素敵なセラピストライフを歩んで行くのだろう。
波さんとの明るい会話の中で、ふとそんなことを考えていました。
校長からのメッセージ
現在、波さんのサロン「curatrice」は、基本的に女性専用で1日1人のお客様をお迎えしています。
集客については、フリーペーパー等の広告は使わずに、お客様がお客様を連れてきてくれるパターンが多いそうです。
お客様の年齢は20代から60代までと幅広いのですが、職業や人柄に傾向があると波さんは語ってくれました。
それは、学校の教師、音楽教師、秘書、公務員など、普段から完璧を求められる職種に就いている人が多いということ。
もともと真面目な性質を持っている波さんにとっては、どこか自分と重なる部分があるそうで、「まるで私が引き寄せているよう」と微笑みながら表現してくれました。
「頑張り屋さんだったり、完璧なイメージを持たれやすい職業の方が多いですね。常にちゃんとしていなくちゃいけなくて、甘えられないっていうのかな。そういう方の中には、私のサロンに来ると“自分に戻れる”と言ってくださる方もいます」(波さん談)
普段、私たちは社会の中で、誰もが少なからず、キャラクターを演じている部分があります。
職場や学校、家庭でも、気づかないうちにキャラクターを崩さないようにする傾向にあると言われています。
いつも同じ調子で生きていられる人が世の中にどれほどいるだろうか、と考えると、常にキャラクターを崩さずにいること自体が無理があるように思えます。
こうした現代社会においては、キャラクターを脱ぎ捨ててもいい場所と時間を提供することも、セラピストの役割の1つなのではないかと思うのです。
波さんのサロンに来るお客様が「自分に戻れる」と漏らすのも、やはり普段気を張っていて、別の自分を演じていることの現れなのかもしれません。
ただ、難しいのが、単に「ここでは本来の自分に戻っていいですよ」とお客様に伝えるだけでは、簡単には「本来の自分」を見せてくれないことにあります。
セルフイメージが邪魔して「自分がこんな事を言ったら変だ」と抑制しまったり、あるいは「本来の自分」が分からない場合もあるからです。
そんな時に活きるものの1つが、セラピストのカウンセリング能力なのではないでしょうか。
何気ない会話の中で、カウンセリングシートの中で、施術で体に触れる中で、様々な場面でお客様自身も気づかないような特徴や変化を感じ取り、言語化していく。
その際に、様々なツールを使うセラピストもいるわけです。
波さんの場合は、アロマをメインのツールとしつつ、アーユルヴェーダや四柱推命など、複数の視点でお客様の本当の姿を知ろうとしている、と言えます。
特別に「カウンセリング」と言わずとも、そうしたセラピストとの交流の中で、お客様は「本当の自分」に向き合い、同時に「演じていた自分」にも気づくことになるのではないでしょうか。
そういう意味では、カウンセリングとは、お客様とセラピストの共同作業であり、二人三脚で自分の本質を探り当ててくれた相手だからこそ、お客様はセラピストに心を開くのでしょう。
もしかすると、こうした段階を経て、サロンは単なる「トリートメントの場」から、「心と体を解放する場」へとシフトチェンジしていき、お客様にとっての唯一無二へと変わっていくのかもしれません。
波さんのサロンで起きたメニューのシフトチェンジの話を聞きながら、そんな考えを巡らせたインタビューでした。
ホリステックアロマサロンcuratrice
https://aroma-curatrice.jimdofree.com/