東京新宿御苑にて、16年にわたって個人サロン「アロマ&リフレクソロジー ねむの木」を経営し、東京を中心に出張セラピーの提供もしている、竹本まさえさんのセラピストライフを紹介します。
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竹本さんは、個人サロンで活動する一方で、出張スタイルでも活動しています。
現在は、怪我や体調などを理由にサロンに通えないお客様に対し、定期的にご自宅への出張して、サロンと同じくリフレクソロジーを中心としたオーダーメイドメニューを提供しています。
その他にも、竹本さんはこれまで15年の間に様々な出張セラピーを行ってきています。その例を挙げると
など、依頼があれば可能な限り応えてきたそうです。
もちろん、セラピーを提供する環境はサロンとは違いまちまちです。
竹本さんは、たとえ狭い空間であっても、またベッドではなくお布団であっても、サロンと同様に、お客様に100%満足していただくことを目指して最善を尽くしてきたそうです。
「出張先の状況によって限られることはもちろんありますが、自分の工夫次第だと思います。できるだけお客様に手間を掛けさせないことは大切にしています。お客様のご自宅へ出張するときは、タオルとかシーツとか、いっぱい余分に持っていくんですよ。オイルケアだと、お客様が洗濯するのはすごく手間じゃないですか。施術後にはきちんとお掃除もしますよ。身だしなみも含めて、自分は呼ばれていくけどお客様じゃない、という気持ちは絶対に忘れちゃいけないと思います」(竹本さん)
竹本さんがこれまで出張してきた先は様々で、ケースごとに出張し始めた経緯もまちまちです。
例えば、竹本さんが初めてお客様のご自宅に出張したのが、ご友人のお母様のケアだったとことで、その際はお布団での施術だったといいます。
また、ご自宅へ出張したケースの中には、100歳のお客様をケアした経験もあるのだそう。
その方は、88歳の頃に竹本さんのサロンに通い始めて、93歳くらいの頃に怪我をして通えなくなったことをきっかけに、竹本さんがご自宅に出向いてケアすることになったそうです。
こうした経験があるため、サロンのお客様の中から「うちの母もお願いしようかしら」とご依頼されることもあるとのことでした。
私が「お布団での施術に抵抗感はありませんか?」と聞いたところ、竹本さんは、こんな話をしてくれました。
「アロマのボディートリートメントを勉強している時に、とにかく早く覚えたかったので、友人や実家の母を相手にオイルトリートメントの練習をしていたんです。その時に、お布団ではどんな体勢でやったら無理がないかとか、膝が痛くなるからバレーボールの膝当てをしたりとか、部屋によって違いがあっても工夫してやっていました。その頃に、出張セラピーに必要なものはある程度、体得していたんだと思います」(竹本さん談)
多くのスクールでは、ベッドを前提とした技術を学ぶはずで、それを基本として体に覚え込ませるようにスキルを身に付けてきたセラピストがたくさんいるでしょう。
ただ、それをベッドありきの技術ではなく、要点を掴んだ上でお布団のような別のシチュエーションでも応用を利かせることができるというのは、技術面だけでなく、思考の柔軟性という面でも出張スタイルにおいて大切な資質なのかもしれません。
続いて、婦人科併設の院内セラピールームについて聞くと、こちらに関しては、SNS(ミクシィ)を通じた交流の中で実現したということでした。
竹本さんはサロンオープン当初からブログでの情報発信に力を入れていて、当時流行っていたミクシィにも積極的に参加し、とくに不妊治療に関して、経験者かつセラピストの視点から発言していたそうです。
すると、そのコミュニティに、独立準備中の婦人科クリニックの院長先生が参加していて、その方から竹本さんは声を掛けられたのだそうです。
また、特別養護老人ホームへの訪問リフレクソロジーに関しては、サロンのお客様からのご縁で繋がったとのこと。
開業当初から高齢者を対象にしたトリートメントを視野に入れていた竹本さんは、「ボランティアならば、お役に立ちながら経験を積めるのでは」と考え、その事をことあるごとに周囲に話していたそうです。
すると、お客様の中に作業療法士の方がいて、その方が勤めていた施設につなげてもらえたということでした。
その他、企業のウェルネスイベントなども、SNSでの発信やお客様との繋がりの中でご縁があり、竹本さんは「基本的には、頼まれたことは断らないようにしよう」と考えて、引き受けてきたそうです。
もちろん、依頼される通りにはできない場合もありましたが、彼女なりに可能な方法を考え、提案するようにしていたといいます。
竹本さんは自身の不妊治療や、お父様の闘病に寄り添った経験から、「届けるべき人に、必要なケアが届きづらい現状がある」と語ります。
「せっかく技術を身に付けたんだから、病院だとか、老人ホームだとか、一番届けるべき人にセラピーを届けたいっていう思いを持ちながら、勉強したり経験を重ねてきましたし、ケアを必要としている現場に繋がれるように、人に会うようにしてきました。そういう積み重ねの16年でしたね」(竹本さん談)
届けるべき人に、必要なケアを届けたい
その彼女の気持ちをより一層強くした、あるお客様とのエピソードを教えてくれました。
そのお客様は竹本さんと同世代の女性で、毎月のように通ってくださるリピーターの方でしたが、突然、来店しなくなったのです。
竹本さんが心配していると、ある日、そのお客様のご友人から連絡がありました。実は、大きな病を患って入院し、今はホスピスにいるというのです。
竹本さんが病床のお客様の施術に向かうと、その方の姿が竹本さん自身のお父様の、その最期の姿と重なって見えたそうです。
もう長くはないかもしれない、と直感しながらも、竹本さんにその時にできる最善のセラピーを尽くしました。
それ以来、定期的に依頼を受け、何度もその方のもとに伺ったのですが、しばらくするとまた連絡が途切れてしまったそうです。
気になった竹本さんがホスピスを訪ねると、残念なことにそのお客様は亡くなっていました。
最後に施術を受けた翌々日に、その方はこの世を去っていたのです。
そのお客様のご葬儀の際、連絡を仲介してくれていたご友人から、竹本さんはこんなことを言われます。
「竹本さんのお陰で、彼女の顔のむくみが取れて、綺麗なお顔で送り出すことができた。私はそれがとても嬉しいんです」。
そして、生前にその方が「施術を受けて、すごく気持ち良かった」と喜んでいたことも。
「もう長くはないと分かっていたのに、私の中では満足できる施術が出来なかったという思いがありました。私、技術者としてまだ未熟だなって、満足していただけたのかなと思いながらの施術だったので。だから、ご友人の言葉はすごく嬉しかったんですけど、同時にごめんなさいという気持ちもあります」(竹本さん談)
竹本さんに出張スタイルでの今後の方向性を尋ねたところ、緩和病棟やホスピスなどの医療現場に常駐してセラピーを提供する方法を模索していることを教えてくれました。
そこには、「届けるべき人に、必要なケアを届けたい」という思いとともに、緩和病棟やホスピスへのイメージを変えたいという思いもあるようです。
緩和病棟やホスピスというと、どうしても「治療の手立てのない人が行くところ」というイメージが根強く、そこを勧められて「見捨てられたんじゃないか」とショックを受ける患者さんも少なくないそうです。
竹本さんは、そうした場所にセラピストがいることで、肉体的な苦痛だけでなく、精神的な苦痛を安らげたり、そこで過ごす時間のクオリティを高めることに繋がるのではないかと考えているのです。
サロンに通うお客様が、セラピーを通して「自分が大切にされている」と感じることで、低下していた自己評価を回復させ、お客様自身が自分を大切に扱えるようになっていく。
こうした、サロンの中で日々行われているプロセスを、医療現場にも持ち込むことは、きっと病気でメンタルが落ちている患者さんたちの大きな助けになるだろうと思います。
もちろん、医師や看護師を含めて、医療現場のスタッフの方々は、それぞれに全力で患者さんを支えていることでしょう。
しかし、ゆっくりと話を聞いたり、優しく体に触れるような時間と技術には関しては、セラピストがやはり適任だろうと思います。
ただ、医療現場にセラピーが入るには、医療者、セラピスト、双方の理解に加え、患者やそのご家族を含めた世間のイメージも変わっていかなければならないでしょう。ですので、すぐに現状が変わることはないかもしれません。
ですが、それでも数十年前と比べれば、セラピーの世間的な認知度も向上していて、セラピーを取り入れようという医療側の動きも少しずつ耳に入るようになってきたように思えます。
そしてそこには、医療現場でのセラピーの必要性を訴え続け、自らの活動の中で医療現場での実績を積んできた、竹本さんのようなセラピストたちの働きがあってこそなのだろうと思います。
セラピスト1人ひとりの力は小さいかもしれませんが、セラピーに触れた人たちの心に確実にその存在意義は伝わっているはずです。
セラピスト1人ひとりが、お客様に寄り添いながら、少しずつ積み重ねた結果が、今になっている。
ならば、これからも社会を少しずつ良い方向に進む力になるはず。そんなことを考えたインタビューでした。
校長からのメッセージ
今回は、個人サロンを経営する一方で、東京を中心に出張セラピーの提供もしている、竹本まさえさんのセラピストライフを紹介しました。
出張先の状況も、依頼者から期待されていることもまちまちなのが、出張スタイルの特徴です。
つまり、その場その場において、相手の求めることを把握し、セラピストとしてできることを積み重ねてきた。
それを継続してきたからこそ、今の竹本さんのセラピストライフがあるのです。
出張スタイルで気を付けていることを竹本さんに聞くと、お客様のご自宅に出張する場合の、お客様との距離感について話してくれました。
聞けば、距離感が凄く縮まり過ぎて、都合よく頼み事をされてしまうことがあるというのです。
特に、竹本さんの場合は高齢のお客様なので、お客様のご家族から、まるでケアマネージャーのような頼み事をされることもあったそうです。
竹本さんは、責任を持てない範囲の頼み事に関しては、はっきりと「引き受けられない」と伝えるようにしているとのことで、この線引きが重要だと言います。
また、施術料についても、お客様にちゃんと伝えることも大切なのだそうです。
竹本さんは、2時間以上のコースから出張を受け付けていて、プラス出張費をいただいているとのことでした。
時間帯についても気を付けていて、例えば、昼間の中途半端な時間に出張の予約を入れてしまうと、移動時間を含めると丸1日かかってしまうことになります。
ですので、サロンにお客様をお迎えする時間よりも、後の時間に出張の予約を入れてもらうよう、丁寧に説明をしているといいます。
竹本さんが出張セラピーを始めた当初、こうした約束事や設定を曖昧にしていたことで苦労をしたそうで、お客様との距離感を適切に保つ感覚や、サロン経営とのバランスを取るセオリーを徐々に掴んでいったようです。
さて、竹本さんに今後の活動について伺うと、セラピストを対象にした経営やサロンワークのノウハウをシェアするような活動について計画していると教えてくれました。
接客や集客はもちろん、SNSなどの発信ツールの活用法、企業や医療現場での活動方法など、彼女が蓄えてきたセラピストとして活動するノウハウは、多くの若いセラピストが知りたいところでしょう。
また、不妊などのセンシティブな悩みや、それに対応するセラピースキルについても、リアルな体験談として、他では得がたい貴重な情報だと思います。
お客様に公開するチャンネルとは分ける必要があると考えているそうですが、現在のコロナ禍で発信ツールが目覚ましく発展し、適切に発信できる環境が整ってきたことで、竹本さんは今後セラピストを対象にした発信に力を入れようとしているということでした。
竹本さんが16年のセラピストライフで培ってきた知識や経験。
そこには、ご自身の辛い経験も、悲しいお別れも含まれていて、おそらくマニュアル化できない部分も多分にあるだろうと思います。
しかしそれでも、彼女が見て、感じてきたことを知ることは、後進のセラピストにとって貴重な機会であり、そして大切な気づきを得られるきっかけとなるはずです。
いずれまた、「育成セラピスト」としての竹本さんの話を聞けることを楽しみに、インタビューを終えました。
ねむの木
ねむの木便り
https://ameblo.jp/nemunoki2006