大阪市福島区で19年にわたってセラピールーム「ライトウインド」で心理療法を用いたカウンセリングを行う一方で、スクールの運営をし、さらに心療内科クリニックでも活動している黒田俊之さんのセラピストライフを紹介します。
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セラピールーム「ライトウインド」で黒田さんが提供しているのは、退行催眠療法を中心としたヒプノセラピーのセッションです。
催眠下で潜在意識に働き掛けて、気持ちを前向きにしたり、過去のトラウマを解放することで、お客様の内にあるポジティブな思考や行動を妨げている心的要因に気づくための手助けをしています。
お客様は、男性よりも女性の方が多く、年齢層は30、40代が多いそうですが、20代もいれば、70代のお客様もいるそう。中には、遠方から飛行機を使ってセラピールームに通う方もいるとのことです。
人生の転機に思い悩んだり、日常生活を送る上で生きづらさを抱えている人が、その解決のために自分にあったセラピーやヒーリングを探すうちに、彼のセラピールームに辿り着くようです。
黒田さんは、これまでに延べ8,000人ほどの心の問題に向き合ってきました。
セッション前にしっかりとカウンセリングの時間を取っていて、守秘義務などについてはもちろん、催眠療法に持たれがちな誤解や疑問について説明することも大切にしています。
実は、この事前のカウンセリング自体が、相手のコンディションを判断するために重要な時間であり、またお客様に安心して催眠療法に臨んでいただくためにも大切だと言います。
「初めての方の場合、カウンセリングの時間をたっぷりと取ります。守秘義務などのご了解事項を説明するとともに、心理療法についてご説明もします。中には、操られるとか、意識がなくなるとか、催眠に対する誤解を持っている方もいるので、ホワイトボードに図を書いて疑問点を解消してからセッションに入ります。」
「ここが安心安全な場所であることを分かっていただくことで、他の場所では吐き出せなかった気持ちを安心して出してもらえるんです。守られた安全な空間と雰囲気をセラピストが作るわけです。ただ、メンタルに不調がある場合、いきなり退行催眠療法をすると精神疲労を起こす恐れがあるので、安全なやり方を提案することもあります。」(黒田さん談)
セラピストライフを歩むようになる以前の話を伺うと、黒田さんは大手薬局チェーンで働く超多忙な社員であったことを語ってくれました。
心の中でリセットみたいなことが起きた
黒田さんは薬局薬店の販売員として社会人生活をスタートさせます。
熱心に働くうちに店長や地区のマネージャーになり、やがて本社の医薬品バイヤーも任され、その後、総務部でも働いたそうです。
しかし、毎日夜遅くまで働き続けるうちに、黒田さんは体に変調をきたすようになり、夜はよく眠れずに、朝は目覚めが悪くなり、それでも薬を飲みながら仕事を続けていると、ある日体がまったく動かなくなったのです。
風邪だと思い病院に行った黒田さんは、医師からすぐに入院するよう勧められたとのこと。
「うつ病と診断されました。数年間、睡眠薬を飲みながら仕事をしていたんです。その間にマッサージや足つぼに通っていましたし、自分でも整体を習ったりもしていました。自分では会社を辞めた後の“手に職”のつもりもあったんですけど、今思えば無意識による防御的な行動だったのかもしれませんね」(黒田さん談)
「入院が決まってホッとしたところもありました」と当時のことを振り返る黒田さん。
ただ、入院が決まった後も、病室から部下にメールで指示を送っていたとのことですから、簡単には仕事人間を止められなかったようで、退院後はすぐに復職することを考えていたそうです。
ですが、復職直前に1度、復職直後に2度、突然意識を失うという経験をし、その時に黒田さんは「心の中でリセットみたいなことが起きた」と言います。
それ以降、不思議とスピリチュアルやセラピーに関連する出会いが増えていって、黒田さんはヒプノセラピーを受け、自分でも学ぶようになったそうです。
その後、黒田さんがカウンセリングを学んでいることを知らないにも関わらず、会社から「社員の相談に乗る」いわば社内カウンセラーのような仕事の提案をされます。
さらに、知り合いからの久しぶりの電話で「誰かカウンセリングができる人を知らないか」と聞かれたそうです。
黒田さんは、こうした出来事をシンクロニシティ(共時性)によるメッセージであると受け取り、21年間も勤めた会社を辞めることを決意します。
こうして黒田さんは、セラピールーム「ライトウインド」を立ち上げ、生活の中で生きづらさを抱える人々に寄り添う活動を始めたのです。
潜在意識の力を信じ、侵襲的介入をしない
「この仕事は、会社員のように与えられる仕事ではなくて、自分がやりたい仕事です。実は、若い頃に鍼灸師になりたいとか、心理学科に行きたいと思っていた時もありました。でも現実にはそれが叶えられなかった。だから形を変えた自己実現として漢方薬局に就職したのかもしれないと、今は思っています」(黒田さん談)
セラピストとしての活動を続けるために大切なことを聞くと、黒田さんは「人の潜在意識の力を信じること」と「侵襲(しんしゅう)的な介入をしないこと」と答えてくれました。
時代によって価値感は変わっていっても、喜怒哀楽のような感情的なものは、人類が生まれた頃から変わっていない、また時代や場所が違っても人の潜在意識に働き掛ける試みがされてきたはずで、これからも続けられていくのでしょう。
それゆえに、「AIが取って代わるには難しい世界だと思う」と黒田さんは言います。
また、「侵襲」とは、医学では投薬や手術など、生体の恒常性を乱す恐れがある刺激を外部から与えること。
心理療法では、相手の心を傷つけたり、傷を広げたりするようなアプローチであるとして、侵襲的な介入を極力避けると私に教えてくれました。
「マッサージでも、体の構造に寄り添った施術は心地良いけれど、無理矢理に押し込むようなやり方では傷やダメージが残ります。心理療法でも、辛い過去の経験を無理矢理に思い起こさせるようなことをすると、心のバランスを崩す恐れがあります。あくまで、相手の潜在意識に寄り添って、話を訊きながらやっていくということ。安心安全をベースにやっていく必要はすごく感じていますね」(黒田さん談)
これからの歩みについて聞くと、「このスタイルを継続したいです。年齢的にも還暦を超えますので、いつまでできるかですね」と笑顔で話してくれた黒田さん。もちろん年齢によるやりづらさは、今のところ感じてはいないそうです。
黒田さん自身が勉強熱心なことに加え、お客様や出会う人々から教えてもらう気持ちを持って向き合うことで、彼自身の知識や情報も日々アップデートされていくのかもしれません。
今回、黒田さんは低く落ち着いた声で、丁寧に私の質問に答えてくれました。
セラピールームに訪れるお客様は、その声に安らぎを感じ、心の防御を解いていくのかもしれない。そんな想像をしたインタビューでした。
校長からのメッセージ
セラピールーム「ライトウインド」でのヒプノセラピーのセッションは、90分と3時間のコースが設けられています。
開業当初は90分コース(15,000円)を基本にしていましたが、遠方から来る方や、事前のカウンセリング時間をしっかりと確保したい場合もあって、3時間コース(28,000円)を加えることにしたそうです。
現在は3時間コースを希望されるお客様が多いといいます。
お客様がセッションルームに来るきっかけとしては、多くは紹介とHPが多いとのこと。
紹介の場合は、お客様同士の口コミではなくて、他のセラピストやヒーラー、占い師などからの紹介が多いそうです。
確かにお客様としては、自分が心理カウンセリングに通っていることを人に話すのは、やはり抵抗があるので、知り合いへの口コミ紹介はあまりないでしょう。
また、セラピストやヒーラー、占い師は人の悩みに接する機会が多いものです。
その中で、自信を持って対応できないお客様に、別の専門家や医療機関へ行くことを勧めるとのこと。職業倫理上、あるべき姿だと思います。
そして、そうした場合に紹介されるのが、黒田さんの「ライトウインド」なのです。それはつまり、黒田さんの長年の実績と実直さがあってこその信頼の大きさを表しているのだろうと思います。
HPについては、黒田さんいわく「ほぼ開業当時のまま」ということですが、心の問題に悩むお客様は不安を抱えていることが考えられますから、HPなどの発信媒体は見た目よりも内容に比重が置かれる傾向があるのかもしれません。
黒田さんの場合、とくにプロフィールページの閲覧数が多いとのこと。
それは、セラピストがどんな学びをしてきたかだけでなく、セラピスト自身がどんな経験を乗り越えてきたか、そして何より信頼できるかを、お客様は読み取ろうとしているのだろうと思われます。
心の悩みを抱える人は、身近な人に悩みを打ち明けることが難しいものです。
人に弱みを見せまいとしているかもしれませんし、心配を掛けたくないという思いもあるのだろうと思います。
そんな時に黒田さんのようなセラピストの存在を知れば、「きっと、この人なら分かってくれる」と期待することでしょうし、同時に「本当に分かってくれるだろうか」という不安も抱くでしょう。
そうした期待と不安で膨らんだ気持ちを正面から受け止め、相手を傷つけないように悩みの底辺にある要因を探り、そっと相手に気づかせる。
その仕事がいかに心を砕くものなのか。
インタビュー中、何度も「安心安全に」「侵襲的な介入をしないように」と落ち着いたトーンで話す黒田さんに、私はカウンセリングを主にするセラピストの精神的な体力すごさの一端を見たような気がしました。
ヒプノセラピールーム ライトウインド