大阪市福島区で19年にわたってセラピールーム「ライトウインド」で心理療法を用いたカウンセリングを行う一方で、スクールの運営をし、さらに心療内科クリニックでも活動している黒田俊之さんのセラピストライフを紹介します。
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黒田さんのセラピールーム「ライトウインド」では、ヒプノセラピー(催眠療法)を学べるスクールを行っています。
そこで教えているのは、ヒプノセラピーを中心に、黒田さん自身が学び、実践してきた経験を加えたもの。
主なカリキュラムとしては、催眠暗示療法の基礎を学ぶ「ベーシックコース(2日間)」と、基礎から開業レベルまでを学ぶ「退行催眠療法トレーニングコース」(26時間)、「上級レベルアップコース」などがあります。(以前は少人数で講座を開いていましたが、コロナ禍においてはマンツーマンでの指導法になっています。)
黒田さんは、カリキュラムの中で「倫理綱領(専門職としての社会的責任、職業倫理を行動規範として成文化したもの)」の概要について学ぶ時間がしっかりと取っているそうです。
セラピーを学ぶ際には、ついスキルの習得ばかりに集中しがちですが、倫理綱領を学ぶことはお客様とセラピスト双方を守るために大切なことと黒田さんは強調していました。
また、カリキュラムの修了後も、毎月のように勉強会を開催して、セッションの練習をしたり、クライアント体験をするなど、セラピスト同士の交流の場としています。
すでにカウンセリングや心理療法を行っている方がブラッシュアップのために通う場合もあるとのことですが、メンタル不調を経験した人や、心理学や潜在意識に興味があって将来的に仕事にしたい方なども、黒田さんのスクールに来るそうです。
カリキュラム修了後は、ヒプノセラピーをメインにしている方だけでなく、ヨガやヒーリングなどと併用される方もいるとのことでした。
ただし、どんな方でも受け入れているわけではないとのこと。
セッションには高い倫理観が必要であり、とくに極端な営利を第一に考えている人は、やんわりと断っていると言います。
セラピストになる以前、黒田さんは自らに起きたメンタル不調に対し、様々なセラピーを受け、自らも学ぶことで乗り越えています。(【セッションセラピスト】編参照)
その際にシンクロニシティ(共時性)によって導かれるようにセラピストになった黒田さんですが、同様に「スクールもはじめて欲しい」という依頼も開業以前から寄せられていたそうです。以来、20年近くの間、受講生の要望に応えてきました。
生徒には、すでに何かしらの専門職(看護師、介護士、医師、カウンセラー、整体師など)から、一般の人まで、様々なバックボーンを持った人がいるので、それぞれに伝わりやすい表現で講座を開きたいという思いから、黒田さんは敢えて少人数かマンツーマンで教えるスタイルをとっているそうです。
スクール経営に取り組んできた感想を聞くと、「普段、私は口下手な方なんですけど、スクールで喋る時は言葉が途切れないんですよね」と笑顔で言います。
「僕は人を育てるような偉い人間でもないんですけども、セラピーの話をするのは非常に楽しいですね。受講生から質問を受けるのも心地良いので、何でもいいから質問してと、よく言います。クライアントさんでもそうですけど、ぜひ質問してほしいんですよ、僕は」(黒田さん談)
次に、セラピストを育成する上で、とくに受講生に伝えたいことを聞くと、「クライアントとの関係性がすごく大事ですね」と答えてくれました。
「クライアントさんは本気で生きているからこそ、悩み、苦しんでいるわけです。それを吐き出すための、守られた安心安全な空間がセラピールームで、セラピストは安心安全なセッション構造をきちんと作ることが大切になります。これを遵守しないと、お互いにとって良くない。そこは、ちょっとだけ口を酸っぱくして言うようにしています」(黒田さん談)
スクールのカリキュラムを修了したとしても、それはセラピストとしてのスタートラインに立ったに過ぎません。
黒田さんは、卒業生が毎月集まれる場として、練習会や事例発表など、セラピスト同士が意見交換できる機会を作り、受講生1人ひとりが育っていく姿を見ているそうです。
これからも自らが学び、実践する中で得てきた知識や経験を惜しみなく伝えていきたいと語る黒田さん。その表情は、育っていくセラピストたち温かく見守る父親のようでした。
校長からのメッセージ
黒田さんのスクールに来る生徒の多くは、HP(とくにプロフィール)を見て、さらに実際にセッションを受けた後に講座の申し込みをするそうです。
黒田さんがずっと実践の現場に立ち続けていることと、やはり彼自身の人柄に触れることが決め手になるのでしょう。
通常、スクールの生徒募集に影響力があるのは、卒業生からの紹介や、SNSを含めた口コミであるとされていますので、黒田さんのスクールは通常のパターンとは違う要素があるのだろうと思います。
これは、セラピールームに訪れるお客様と同様に、「自分が心理カウンセリングを受けているor学んでいる」ということを、周囲の人間に言いにくい空気が関係しているのかもしれません。
欧米では「カウンセラーは身近な相談相手」というイメージがあるのに比べて、日本では「カウンセリング=心の病」というイメージがまだまだ強いということなのでしょう。
企業活動について客観的かつ学術的な見地からアドバイスをしてくれる存在として「コンサルタント」がいるわけですが、その個人版としてイメージした方が「カウンセラー」がより身近に感じられるかもしれません。
さて、今回、黒田さんにインタビューさせていただく中で、セラピーのおける「催眠」の本質は「本音を吐けるほどの安心安全な状況、状態を作ること」だったり、「心の防御を解くこと」にあるのではと考えました。
つまり、それは心理的なリラクゼーションであり、そしてそれは身体的なリラクゼーションとも密接に関わっているはずです。
そう考えると、手法としては違っても、他のセラピーとも大きく重なってくるように思えてなりませんでした。
長くセラピストを続けている人たちの多くは、手技が上手いだけでなく、とても聞き上手です。
さらに、気持ちを落ち着かせる空間や雰囲気作りが上手であったり、お客様の心身をリラックス状態へ導いたり、心をオープンにさせる方法を、意識的にか無意識的にか、日々実践しているように思えるのです。
だから、セラピストにちょっとした体の不調や、生活の中の困り事を相談するうちに、なぜが弱音や本音がお客様から語られる。
そうした心の仕組みを学術的に分析し、実践的なテクニックとして学べるようにしたものがヒプノセラピーなどの心理療法だとすれば、ヒプノセラピストやカウンセラーでなくても、多くのセラピストにとってこれを学ぶ意義は大きいのかもしれません。
ただし、どんな技術も悪用すれば問題になりますし、知らないうちに他人や自分を傷つける恐れとも常に隣り合わせです。
自分が扱う道具や技術の正しい使い道と、誤った使い方の両面を熟知してこそプロフェッショナルです。
だからこそ、黒田さんが倫理綱領を学ぶ時間をしっかりと設け、セラピストとクライアント双方にとっての安心安全が第一だと口を酸っぱくして伝え続けているわけです。
それは、セラピーをする上のガイドラインというよりも、ガードレールのようなものなのかもしれません。
ライトウインド ヒプノセラピースクール 大阪