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南朱美さんのセラピストライフ~個人サロンセラピスト

2022/11/16
南朱美さんのセラピストライフ~個人サロンセラピスト

 三重県津市にて11年にわたって活動し、4年ほど前から古民家サロンを営んでいる、「からだ工房MINOAKA(ミノアカ)」の南朱美さんのセラピストライフを紹介します。


 南さんはセラピスト歴14年の整体師です。現在は、阿漕浦(あこぎうら)海岸まで徒歩3分の場所にある、和モダンの古民家にお客様をお迎えしています。


 南さんは「人生をもっと楽しめる身体を創る」ことを目指し、痛みが出る前の体に戻すための「全身整体」をお客様に提供しています。


 これは、筋肉や筋膜にアプローチして、骨格を矯正するの施術で、自律神経のバランスを整えることも含んでいるとのことでした。


 お客様は30代から50代の男女で、肩こりや腰痛などの体の痛み、頭痛や冷えなどの自律神経の崩れ、O脚やX脚の姿勢改善などを求めて、南さんのサロンに訪れます。


 また、生理痛の軽減などを目的とした女性向けの施術も提供していて、産後ケアのコースも用意されているそうです。


 リピーターさんは全体の7割ほどで、1ヶ月に一度の体のメンテナンスとして、南さんのサロンを利用されるとのこと。


 ただ単に整体を受けることが目的ではなく、古民家の優しい雰囲気の中で南さんとお喋りすることも、リピーターさんたちの楽しみの1つのようです。


「リピーターさんたちは、施術を受けることだけが目的ではなくて、ここに喋りに来てる感じなんですよ。私がよく喋るからなのか、若い女性も男性もよく喋ります。皆さんにとっては、私は“気のいい飲み屋の女将さん”みたいな感じなのかな? それだけ、他で言えないことがあるのかもしれませんね。お母さんでもないし、親戚のおばちゃんでもないけど、一応、先生として見てくれている。身近な人たちとは、ちょっと別の部類なのかな」(南さん談)


 もちろんただ喋るだけではなく、南さんにとってはそれも施術の一環であるようです。


 南さんは、お客さんが話す話題に流されないように意識して、前回の施術からの1ヶ月で起きたことや、体の調子などを自然に聞き取っているのだそう。


 また、施術でアプローチしている部位を、お客様がどう感じてるかを聞き取ることも、やはり施術における重要な情報なのだそうです。


 ただし、頭に施術をする際には、首や肩、顎の力を抜いていただくために、喋らないタイミングもあるとのこと。


 つまり、お喋りは、彼女が自覚的かつ、ごく自然に行っているテクニックだといえます。


 施術後にお客様から「スッキリした」というご感想をいただくことが多いとのことですが、体が整ったことによるスッキリ感と、普段話せないことを安心して話せたことによるスッキリ感が相俟った感想なのではないでしょうか。


 多くのお客様から愛されるセラピストである南さん。


 彼女が、どういった経緯でセラピストになったのか?これまでの歩みを振り返ってくれました。


自分のことを自分で決められる生き方

 セラピストになる以前、南さんは大手複合書店で、店長兼CD売り場を担当するバイヤーをしていたそうです。


 音楽に強い思い入れがあったわけではなかったのとのことですが、売れ行きを予想して、魅力的な売り場を作り、スタッフを育成し、店舗の業績を伸ばしていく。


 そうした当時の仕事に、南さんはとてもやり甲斐を感じていたそうです。


 そんな当時の彼女にとって、セラピストになる気持ちは「200%なかった」と言います。


 しかし、スマートフォンの登場や、ネット環境の発展とともに、音楽や動画を取り巻く環境は激変していきます。


 ここ20年を振り返ってみても、音楽や動画の配信サービスが成長していくにつれて、CDやDVDの市場はみるみるうちに縮小していきました。


 南さんによると、業界では統廃合が繰り広げられていて、バイヤーとしての仕事にも制約が増えていったのだそうです。


 その渦中にいた彼女。「どこか息苦しさを感じていた」と、当時を振り返ってくれました。


 そして、CD売り場の縮小に伴い書籍部門編への異動の話が来た時、南さんは勤めていた会社を離れることにしたそうです。


 おそらく、ずっと自分が積み上げてきた、売り場作りやバイヤーとしてのノウハウやルーティーンが、時代の変化の前に脆くも崩れてしまったこと。加えて、多くの制約の中で働く息苦しさから解放されるためだったのかもしれません。


 こうして長年勤めた仕事を辞めた南さんは、次の仕事を探す中でマッサージ店に勤め始めます。


 その理由を聞くと、

「生活のためです。未経験からでも1ヶ月のトレーニングで仕事ができるって聞いたんで。当時は、ただそれだけでしたね」と南さんは答えてくれました。


 ただ、しばらくして南さんは、「このままでは長く続けられないな」と気がついたそうです。


「その時にいたマッサージ店は、いわゆる強揉みのお店でした。ガッツリと力が要るところだったんで、力こぶが3つありましたもん。これを一生続けるのは、無理だと思いましたね」(南さん談)


 では、どうすればいいのか。


 すでに「自分のことを自分で決められる」という会社員時代には感じられなかった可能性が、セラピストという生き方にあると気づき始めていた南さん。


 彼女が出した答えは、長く書店のマネージメントをしてきたからこそのものでした。


 それは、自ら店長になること。


 自分でシフトを決められる立場になれば、自分の休みをある程度コントロールできるようになり、力に頼らない技術を習得する時間も取れると考えたのです。


 南さんは「私を店長にしてください」とオーナーに掛け合い、スタッフの教育も、宣伝活動もして業績を上げてみせると、宣言したそうです。


 そして、店長として働きながら、休日を利用して整体の学校へ通い、技術を高めていきました。


 南さんはこのマッサージ店を3年ほど切り盛りした後、さらに「自分のことは自分で決められる」生き方を求めて独立。


「からだ工房MINOAKA」を開業します。


 当初は、自宅として借りていた小さなアパートでスタートして、4年ほど前に現在の古民家に移転し、今に至ります。


人生をもっと楽しめる身体を創る

 私が古民家に決めた理由を聞いたところ、「歩いて花火大会が見に行ける場所だから!」と屈託のない笑顔で答えてくれました。


 なんでも、阿漕浦は大正時代から行われている花火大会の打ち上げ場所なのだそう。


 南さんのサロンから歩いて3分ほどで海に出ることができる上、室内は懐かしい雰囲気で、また駐車場もあるということが気に入って、今の古民家に移転することを決めたとのことでした。


 今後の方向性について聞くと、南さんは「最近、初めて機械を導入したんですよ」と、新しく始めた取り組みについて話してくれました。


 その機械は骨に振動を与えるもので、整体による矯正がしやすくなるということ。


 50、60代の、特に女性で、関節の痛みに悩んでいるお客様に応えたいと考えているそうです。


 技術では補えない問題に対して、オールハンドでの施術に拘らず、機械などの新しい方法を取り入れようとする柔軟性は、とても大切なことだと思います。


 もちろん、機械を入れればそれで済むわけではなく、これまで培ってきた自分の技術体系の中に、それをどう位置づけるか、またどのように技術的に連携させるか、という課題に取り組まなければならないので、南さんにとって大きなチャレンジなのだろうと思います。


 また、現在拠点としている津市以外にも、新しい拠点を作って別の地域のお客様とも繋がりたいという、新たなチャレンジについても、笑顔で語ってくれました。


 ちなみに、花火大会の日には、サロンはしっかりとお休みするそうです。


 お客様も、南さんのそうした生き方を理解してくれているそうで、良い関係性を構築していることがうかがえます。


 今回のインタビューを通して、南さんは自分が幸せを感じる場所に身を置き、自由が感じられる生き方を求めてきたように思います。


 もちろん、それは決して簡単なことではありません。


 南さんはずっと笑顔で質問の答えてくれていましたが、本当は覚悟が必要な選択をいくつもしてきたはずです。


 そう考えてみると、冒頭で紹介した「人生をもっと楽しめる身体を創る」という南さんのサロンのテーマに、より重みを感じられるような気がします。


 しかし、その重さを微塵も感じさせることなく、南さんは満面の笑みでお客様を迎え入れ、その笑顔にお客様を巻き込んでいくのでしょう。


 そしてそれこそが、人生を楽しめる人を増やすことに繋がっているのだと思いました。


校長からのメッセージ

 今回は、海の近くの古民家サロンにお客様をお迎えしている、南朱美さんのセラピストライフをご紹介しました。


 最初は、体のトラブルや悩みの解決のために来店したお客様が、やがて整体だけでなく、南さんとのお喋りを楽しみにリピートするようになる、というイメージがよく伝わってきました。


 お客様にとっては、「行き付けの飲み屋」ならぬ、「行き付けのサロン」という感じなのかもしれません。


 生活のためにとセラピストの世界に入り、10年以上も続けてきた南さん。


 意外にも、つい最近まで自分のマインドセットに迷っていたということも、インタビューの中で教えてくれました。


 マインドセットとは、思考パターンのような意味ですが、どういう角度で物事を見て、自分の行動を選択するかということでもあり、別の言い方をすればスタンスということでしょうか。


 本文でも紹介したように、南さんは「誰かを癒やしたい」とか「誰かを癒やす人になりたい」という気持ちからセラピストの道を選んだわけではありませんでした。


 だから、施術をするようになって、お客様に感謝されても、どこか違和感があったそうです。


「生活の為にやり始めた仕事で、生活もできていて、良い人間関係も築いてきました。ただ、お客様に“気持ち良かった”って喜ばれても、自分としてはなぜか充実感が得られないんですよ。役に立ててホッとするんですけど、すごく嬉しい!って気持ちにならないんですね。それがなぜだか自分でも分からなくて、この仕事は向いていないんじゃないかって、いろいろと悩みました」(南さん談)


 その違和感の正体に気づいたのは、ごく最近、相談相手と話している時だったそうです。


「施術には感覚も理論もどっちもある程度必要なんですけど、セラピストによって感覚派の施術とロジカルな施術があると思うんですね。私はロジカルな施術は向いてないと思っていて、感覚派の施術に憧れがあったんです。でも、それが思い込みで、決定的なズレになっていたってことに、ずっと気づかなかったんです。私はロジカルに考える人間だってことに気がついたら本当にスッキリして、私はこれでいいんだって思えるようになりました」(南さん談)


 お客様が喜ぶ姿を見ると、自分事のように心の底から幸せを感じる、というタイプのセラピストはもちろんいます。


 また、感覚的に適切な圧や速度を選択できるセラピストもいます。


 彼ら・彼女らにとって、そういう自分を肯定的に捉えるからこそ、セラピストという道を選び、人を癒やして得られる充実感を生きる糧にできるわけです。


 しかし、セラピスト全員がそうでなければいけない、というイメージにとらわれてしまうと、もしかすると、南さんのようにズレや違和感を感じてしまうのかもしれません。


 お客様の喜びを自分事のように喜べるほどの「感覚派」でなくても、ロジカルに「整っている」と判断して、それでお客様が喜んでいるのなら「そう、良かったね」と言えるのなら、それでも良いのではないでしょうか。


 もう1つ、南さんのマインドセットについての話題です。


「今は、私が私自身を楽しくさせることが一番大事だって分かっているんです。でも、以前は、それはダメなことだと思ってました。お客さんのことを先に考えないといけなくて、自分のことはどうでもいいってくらいに思わなければダメなんでしょって。本当は、自分が楽しくしていないと、お客様にも影響してしまうのが分かったから、楽しんで新しいことに挑戦することにしています」(南さん談)


 セラピストを始めとする対人援助職に就く人は、自分の犠牲にして相手に尽くすことを、美徳だと考えてしまう傾向があるように思います。


 ですが、改めて考えてみれば、セラピストが苦しみながら奉仕してくれることを、大多数のお客様が望んでいるとは思えません。


(画像提供:三重フォトギャラリー)


 セラピストが幸せで、楽しんで活動をすることが、回り回ってお客様の幸せに繋がっていること。


 それを自覚することがセラピストライフを豊かにし、お客様だけでなく、家族などの周囲の人々を巻き込んで幸せにしていくのではないでしょうか。


 もちろん、自分を楽しくし続けることは、実は楽なことばかりではないだろうと思います。


 しかし、楽しく歩む覚悟を決めれば、厳しい道も楽しいチャレンジになるんじゃないか。


 そんなことを考えたインタビューでした。


からだ工房 MINOAKA

http://minoaka.main.jp/